第7怪 幽霊
まったくと言って人気のない、静かな校舎内を練り歩く。
ふと、気に掛かった事を年真先輩に尋ねる。
「心杜って不思議な感じがしましたけど、何者なんですか?」
「あー、お前がそう思うのもおかしくはない。さて、どう話したものか」
年真先輩は唸りながら、考え込んでしまった。彼のことで、どう説明するか悩んでいるようだ。
心杜の事を話すのに、そこまで悩むって……。どういうことだろ……。
「最初にこれから話そう。あいつは学園の恐話を全て把握してる暇人だ」
「恐話の全てを把握!? 暇人以外の何者でもないですね……」
何を悩んでいるのかと思ったら、随分とくだらないことだな。それはそれである意味ビックリだけど。
「……そして」
「まだ何かあるんですか?」
「ここからが本題だ! あいつは学園で命を落とした妖怪になれなかった人間だ。俗に言う『幽霊』だよ」
「幽霊!?」
何だそれは!
だって、心杜は視認出来たし、会話も出来たじゃないか!
「心杜は普通の幽霊と違っていて、何やら『
「……何ですか、間世界って?」
「これは心杜から聞いた話なんだが、この世界には三つの世界があるようなんだ。一つ目はうつつと書いて現と読む『
「何なんですか、そのややこしい世界観は!?」
たまらずツッコミを入れてしまう。右手は空中を叩いていた。
「世界観とか言うなよ……。言ってるわたしも恥ずかしくなるじゃないか……。とにかくこの世界には、三つの世界が同時に存在していて、心杜はその狭間の世界に住む幽霊なんだ」
よほど話すのが恥ずかしかったのか、年真先輩の頬が赤く染まっている。
だって完全に中二病設定だもんなあ……。
「それで……?」
ごほんと咳払いをすると、年真先輩は続きを話し出した。
「心杜は間世界という狭間の世界にいるから、姿が見えたりするし、人間とも妖怪とも会話をすることが出来る。そして、間世界にいるからこそ、誰にも心杜をどうすることも出来ないんだ。ある意味無敵の存在さ」
「凄いじゃないですか!」
驚愕の事実に鼻息を荒くする。彼がそんなにもむちゃくちゃな幽霊だったとは。
「……そんなに良いこと尽くめじゃない。心杜は間世界にいることによって、現世界と幻世界から拒絶されてるんだ。姿が見えて、会話も出来るからと言って、どちらかの世界に行ける訳じゃない。人間にも妖怪にもなれない常に中間の存在、それが千久間心杜だ」
年真先輩の表情が歪む。それは心杜を思っての苦痛じゃなく、自分に対しての苦痛に見えた。
「……何か可哀相な奴なんですね」
「だから、心杜が言ってた人間と妖怪がいざこざを起こすのが好きって言うのは、分からなくもない。自分を拒絶する二つの世界が気に食わないんだろ」
「………………」
心杜に同情したのか、ぼくは黙してしまう。自分の居場所がない辛さはぼくにだって分かる。今度彼に会ったら、もっと優しくしようと思った。
「さぁさぁ、集中して多彩な小人を探すぞー!」
張り切った年真先輩が荒々しく高声を上げる。繊細な声に荒々しさは似合わないなと思った。
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