第6話 お前は天国に行くんだ
父が私を村から追い出すように移転させたのは、私の役職がテイマーからネクロマンサーに変化したせいだ。テイマーとネクロマンサーは同じ使役系の役職で、テイマーはとある条件を満たすと自動的にネクロマンサーに転職してしまう。その条件は単純。――
大きな町であれば、ネクロマンサーに対しての偏見も大きなものではない。が、閉鎖的な村では職業に対する偏見が大きく、私がなったネクロマンサーもその対象であった。
先祖を、死者を冒涜する悪人。
どんな理由があれ、どんな実績を積み重ねた人であれ、ネクロマンサーというだけで軽蔑の対象で、あのまま村で暮らしていれば私は精神的な疲労で潰れていただろう。そのうちに、使役している
『ふくを解放しなさい』とは、そういうことだ。
「ふく、聞いて」
一通り泣いて、鼻先を、目を赤くしながら私は言った。
声は震えて、上手く話せないけれど、お前ならきっと正しく聞いてくれる。
「私は、お前にとっていい飼い主でしたか」
酷い質問だ。お前は、私しか知らないのに。
良し悪しなんて知らないお前に、私はそんな質問をする。
「私は、お前を愛せていましたか」
お前を思い出すたびに涙を零してしまう私。
そんな私なら、お前のことを愛していたと言っても良いのだろうか。
「私は、お前を一等大切にはできませんでした」
隣と比較すると、私はちっともお前を大切にしていなかった。
もっとできた。もっと、もっと、お前を長生きさせる術があった。
「それでも、ふく、お前の代わりは無いと言い切れます」
お前の代わりはいらない。
「ごめんなさい、ふく。お前の代わりはいらない。無いと知っているのに、お前の代わりをさせてしまった」
立ち上がるのに、長い年月がかかった。
先へ進むための一歩を進むだけに、沢山の時間を費やした。
「もういいよ、ありがとう。馬鹿な私の一人芝居に付き合ってくれて。ありがとう、もう大丈夫。大丈夫、ふく。寂しいよ、寂しいよ、でも、お前が女神様の元に行けないのはもっと嫌だ。いい子なお前は、天国で幸せに暮らすんだ」
ぴょんと、ふくは私の膝から降りる。
降りて、あの時のように音を立てて倒れた。あの時は見なかったお前の最期。雑音として切り捨てたお前の最期を、私は見る。見る見るうちに白骨していくお前。小さく、小さくなるお前を私は泣きながら見つめた。
「……っ。あ、あぁ……」
小さくなったお前を見下ろして、私は自分に言い聞かせるよう言った。
「壺、買わなきゃなあ」
「死なないで」と願ったら、軽蔑されるネクロマンサーにジョブチェンジしてしまいました。 @UnfitOwner
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