第5話 お前の姿をした偽物

 一人暮らしというものは初めてで、実家という環境に甘えていたんだなと再認識させられる。勝手に用意されない飯。自分で作らないといけないし、面倒だからと抜くと明日の自分に恨まれる。


「ふく、起きてる?」


 暗いところが大好きになったお前用に取り付けたカーテンを久しぶりにはぐる。放置し続けたケージ。餌は辛うじて入れていたつもりだが、腹を空かせているかもしれない。ここには、お前を気に掛けるカンソアも居ない。


「…………」


 空っぽな餌箱。空っぽの水入れ。綺麗な床。音に反応して私を見るお前。


「あ……、ぁああ……っ!」


 新生活にかまけて、お前にちっとも構わなかった。世話をしなかった。

 それでも、お前は変わらず私を迎え入れる。私が思っているお前のように動き、空っぽの餌箱に顔を突っ込む。必要もない癖に、私がそうして欲しいと思うから、お前はそのように動く。


『娘はまだ、自分のしてしまったことの重さを理解していないのです』


 ふと、父の言葉が蘇る。

 理解した、分かってしまった! あの言葉の意味が!!


「ふく、ふく、わた、私は……っ!!」


 お前を死霊アンデットとして蘇らせた。

 ただ一緒に居てほしくて、動いていて欲しくて。私の知っているお前のように、お前の骸をもてあそんだ。


 自覚した瞬間に、お前は私の知るお前では無くなった。

 泣く私を慰めるかのように、決して乗らない膝の上に乗って鼻先を寄せる。「泣かないで」「大丈夫?」と、慰めるかのような行動に、また涙が零れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る