第3話 お前の手を離せなかった
カンソアは偉いんだ。
お前が死んでから、毎晩毎晩、眠るときにお前を撫でているんだと。私はお前の顔すら見たくなくて、お前が燃やされる当日になって、ようやくお前の顔を見た。
お前が燃える前に最後の別れをしようと、僧侶の人が言った。珍しく人じゃなくても祈ってくれる人らしい。撫でて、撫でて、別れたくなくて、見に行かなかった癖に手放したくなくて。まだ、お前はここにいると。お前と一緒にいたいと、馬鹿みたいにすがって、泣いて、泣いて。――私は、罪を犯したんだ。
「ブッ、ブッ」
鳴き声がした。あの日から、二度と聞かないと思っていたお前の鳴き声だ。
顔を上げると、お前は幼い頃のように布の上に座り込んで、母の腕の中に居ることが不満そうに鳴くんだ。
「ふ、く……?」
すんすんと差し出した指を嗅いで、お前はぷいっと顔を背ける。
お前だ、生き返ったんだ。生きていたんだ。嬉し涙が溢れ、振り返る。
「…………?」
先程まで泣いている私の頭を慰めるよう撫でていた父は酷く焦ったような表情で、苦しそうな顔で私の肩を掴んだ。痛い。手加減のない強い力に、私は逃れようとするが、父は放してくれない。
「カンシア、今すぐ解放しなさい」
「痛い……放してよ」
解放するのはお父さんのほうでしょと、睨みつけて言ってやった。ようやく、父は私の肩を放す。そして、聞いてきた。
「分からないのか! カンシア!! お前は、ふくを
分からない。分からない。
だって、ふくは生き返ったんだもの。帰ってきてくれたんだもの。女神さまが生き返らせてくれたんだもの。違う、違う、そんなことない。そんなことないんだって、私は自分を騙すことしかできなかった。
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