第2話 お前を愛していたのだろうか
「スノー、ましろ、ホワイト。んー皆は何がいいと思う?」
「なんでもいいー」
「カンシアが決めるのー?」
お前を譲り受けた日を覚えている。ジャンケンに負けて、でも私は真っ白なお前が欲しいと言い張っていてしょんぼりしていたんだ。ジャンケンに勝った子が気を使って別の子を持って行って、私は真っ白なお前を抱き上げた。
お前を迎えるにあたって、勉強みたいなこともしてみたんだ。何を食べるのか。食べさせてはいけない餌。どう抱っこすればいいのか。……抱っこに関しては諸説があって、未だに自信がないんだけどね。
「じゃあ、カンソアもアイディア出してよ。カンフェルも! なんか出す!」
「えー……どーせ決定権はカンシアにあるんだろ? オレは何でもいいよ」
小さなお前を囲んで、堂々と話し合った。お前は何を思って聞いていたんだろうね。あーでもない、こーでもないと悩む私たちを見てお母さんが言ったんだ。お前の真ん丸なお尻を見て、「じゃあ、〝だいふく〟っていうのはどう?」って。
「だいふく?」
「なにそれ?」
どんな意味があるのと聞く私たちを見、お母さんは言った。
「白くて丸い縁起の良い食べ物なんですって」
「へー、そんなのがあるんだ」
いいんじゃない? って、皆で笑いあってその日からお前の名前は〝だいふく〟になったんだ。皆、好き勝手に呼ぶんだけどね。「だいふく」って呼ばずに、基本は「ふく」って呼んだっけ。
お前は自分の名前を憶えていたのかな? 呼んだらたまーに来てくれたけど、おやつを振った時のほうが俊敏だったな。覚えていないかもしれないけど、呼んだら来てくれる。激しく鳴くことも、噛みつくことも無い利口な子だったよ。
頭がいい子だったのかな。スプレーもしなかったし、どこを触っても怒って噛みついてくることもなかった。抱っこは嫌だって暴れたけれど、カンフェルの抱っこだけは受け入れてたんだよな。たまにしか世話をしなくて、遊んでるだけの奴に懐くのは世の宿命なのだろうか。
「こらふく、そこからでてこーい」
隅っこが好きなお前は、箪笥の下なんかに潜り込んで中々出てこなかったっけ。ずっと出しっぱなしにするわけにもいかなくて、おやつに釣られて出てきた瞬間を狙って捕獲した。
臆病なお前は知らない場所に置いた瞬間に大人しくなるから、膝の上に乗せたいときはそうしたっけ。いつもはぴょんと逃げ出してしまうお前が、膝の上に留まって大人しく私に撫でられているのは可愛かった。
「……ふく」
ごわごわになったお前の毛を撫でる。
明日、お前を燃やすんだって。お前のために皆帰ってくるって。お前と最後のお別れをするんだって。お前が死んで、私はさ、後悔したよ。お前を映した写真が何にもないんだ。大切なのに、もう1人の家族だと思っていたのに、お前の記録を何一つ残していなかったんだ。
なあ、これでもお前を愛していたと言えるのだろうか。
お前が大切だったって、家族なんだって言う資格があるんだろうか。
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