「死なないで」と願ったら、軽蔑されるネクロマンサーにジョブチェンジしてしまいました。
@UnfitOwner
第1話 お前が死んだ日
「ふく。いい子にしてた?」
「ふく。にんじんの余りを貰ってきたよ」
「逃げないで、ふく! 爪切らなきゃいけないの!」
――ふく、ふく、ふく。
眠っている時だけ忘れられるあの子との思い出。
「シア、ふくが……!」
「なにぃ? ふくがどーしたって?」
眠たくて、うっとおしくて、突き放すように言ったあの言葉を覚えている。
「うんちが溜まってるの」
「落ちてこないだけじゃないの? そんなんで起こさないでよ、カンソア」
――もっとあったでしょ。
元気そうだから大丈夫だって思っていた。動物が弱みを見せないって、なんで思い出さなかったんだろう。どうして、当たり前の明日があると思っていたんだろう。
「ごはん、食べないね」
「ふく、おやつ。お水。……だめ、食べない。飲まない。昨日はあんなに飛びついてたのに……」
――早く病院に行きなさいよ。何かあったかもしれないじゃない。
かくん、こくんと倒れては起き上がるあの子を覚えている。自分じゃもう体を支えられないくらいに弱った子。まだ、まだ、ずっと、ずっと、生き続けていると思っていた。あと一年、あと半年、もっと、もっと。日を超すごとにあと一年頑張ろうね、おじいちゃんなんて……。笑って、お前がいる日が当たり前だと思っていた。
――バタンと、倒れる音がした。また起き上がるものだと思っていた。
心配していた癖に、私は手元の娯楽を優先して本のページを捲る。あの子の最後の音を、私は雑音として聞き逃したのだ。
「ふくー……?」
少し経って、私はお前が気になった。最後に倒れた音がしてから、30分くらいだっただろうか。とっくに冷たくなってる体。目を開けたままお前は足をぴんと伸ばして横たわっている。糞尿で少し汚れた尻の毛。ケージの中で触れようとしても、そんなに触らせてくれなかったお前が何の抵抗もなく触れさせてくれる。
――あ、死んだんだ。死んじゃったんだ。
泣いて、泣いて、泣いて。
何をすればいいのか分からなくて、ただ泣いて。綺麗にしてやるとかそういった頭もなく、ただ泣いて。死体は腐ってしまうかもしれないからと、日が当たらない冷たい場所にお前を持って行った。
やることがなくて、腹がすいて、ご飯を食べて、私はまた本のページを捲る。あの子が居たときと同じように、いなくなっても、同じようにページを捲った。
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