酒と4.5畳1Kとアラフォー女
nako.
帰宅後のルーティーン
帰宅するとまずはリュックを4.5畳の寝室に置き、玄関のすぐ側にあるキッチンに向かう。我が家の万能調理器である大きめ深底フライパンに水を入れ、IHコンロの上にセットし加熱開始。湯が沸く間に近所の西友で購入したものを冷蔵庫にしまったり、すぐ食べるものはミニテーブルに広げる。カップ焼きそば、とり天の惣菜、納豆、氷1キロ、強炭酸水。この日は1時間半も残業になってしまったので自炊を放棄し、ジャンクフード祭りを開催することにした。手を洗って部屋着に着替え終わった頃には深底フライパンの湯が沸騰していて、IHのスイッチを切りカップ焼きそばに湯を注ぐ。スマホのストップウォッチ機能で3分計っている間にとり天をレンジで温め、作り置きのもやしナムルを小皿に装い、納豆3パックのうちの1つを開封しかき混ぜ、ハイボールを作る。保冷タンブラーに買ってきた氷を山盛り詰め込み、西友で一番安かったスコッチを大体タンブラーの下から4分の1までの高さまで注ぐ。多分知り合いのバーテンダーがこれを見たら「濃過ぎだろ」と突っ込んでくるに違いない。そして残り4分の3は購入したばかりの強炭酸水で埋める。そうしているうちに3分経ち、カップ焼きそばの湯を捨てソースだの加薬だのを入れてかき混ぜ完成。本日の夕食が揃った。念の為、毎日こんな食生活ではないということだけ言っておこう。コールセンター勤務で、退勤まで10分切った頃にかかってきた電話を取り、対応が長引いて1時間以上残業してしまった日にこうなりがちなのである。
濃い目のハイボールを飲みながらテレビリモコンで番組表を一通りチェックする。この日は地上波放送で特に見たいものがなかったので、早々にYouTubeに切り替えた。最近はお気に入りの大食いYouTuberの、大食いチャレンジ動画を見ながら夕食をとることが日課になっている。カップ焼きそばを食べているので説得力ゼロかもしれないが、4ヶ月前から休日のジム通いを習慣付け、多少食生活改善もしたので順調に減量出来ているのだ。それでも好き放題食べることが出来ないため、こうやって大食いYouTuberや韓国のモッパン動画を見ることで食に対してのストレスを軽減している。大食い動画を2つほど視聴している間に夕食は平らげたのだが、その後も濃い目のハイボールはお代わりをする。毎晩最低タンブラー3杯分は飲んでいるのではないだろうか。もう要らないかな、と思えるまで飲み続け、眠くなってきたらそこでおしまい。こんな毎日になって半年以上経った。
約半年前、10年以上生活を共にした彼との同居生活を一旦解消することになった。誤解が生まれる前に明言しておくが、あくまで同居生活を解消しただけで交際関係は継続しているし、私が新たに引っ越した住まいは、同居生活解消後もそのまま住み続けている彼の家から5分もかからない場所にある。なんとも奇妙な状況だ。話した人皆に「何それ?」と言われるのも無理はない。
同居生活解消の理由を簡単に述べると「喧嘩をしないようにするため」「離れて暮らしてそれぞれ自分を見つめ直すため」である。気の利かない私が余計なことを言ってしまうことがあり、怒りの沸点が低い彼の逆鱗に触れ、地獄の喧嘩タイム数時間、というような展開に数ヶ月に1回陥るのが私たちだ。それでも10年以上時間を共にし、私の両親に会わせたりもしたので、母は私からの連絡をてっきり結婚を決めたという報告だと思ったことだろう。それなのに一緒に住むことをやめると30代後半の娘から聞かされたのだから酷く落胆したに違いない。今でも両親には今の私の状況を申し訳なく思っている。
親不孝で申し訳ないとは思いつつも、正直なところ今の生活になってからの方が気が楽になったし、彼との関係も良くなったように思える。仕事がある日は別々に過ごし、休日に彼の家(元私の家)を訪問し一緒に過ごす、という生活習慣になってからは些細な喧嘩が起こるようなことはなくなった。きっと会っている時間は、穏やかに仲良く過ごそうとお互い意識付けをしているのだと思う。
また、食の好みが微妙に合わないところもあるので同居生活中は基本彼の好みに合わせていたのだが、一人暮らしになって自分の好きなものを食べられるようになったところも大きい。自分一人なら必ずご飯と味噌汁を用意しなくても良く、辛味の強いものや納豆も毎日食べられる。「健康のためにお酒を控えて欲しい」と言われて渋々設けていた休肝日も廃止し、毎晩酒を飲みながら好きな地上波のバラエティー番組やYouTubeなどの動画を見られる。チャンネル権が全て自分にあるということも快適だ。私が全く興味のないパチスロ情報系動画を見ながら夕食をとったり、プレステのゲームに勤しむ彼に「今日見たい番組あるんだけど」とお伺いを立てなくても良い。
今これを読んでいる人はきっと次のような疑問を頭に浮かべていることだろう。
「なんで同居生活解消だけで別れないの?」
「もっと気が合って楽な人、探せばいるって」
実際友人と飲んだ時に無理やりスマホにマッチングアプリを入れられ、とりあえずアカウントを作らされたのだが、帰宅後即行でアプリを削除した。新たな異性との出会いなど、私はまるで興味がないからだ。
彼はどちらかというと古風な考えで、今時の多様性重視な風潮に疑問を持っているらしい。だいぶ昔に政治的思想の違いで喧嘩に発展して以来、ニュースにぼやく彼に対して私はノーコメントを貫くようになった。私と違って毎晩酒を飲まないから私に休肝日を作るよう口うるさく言う。煙草も吸わないので、私は一緒にいる時は絶対に吸わないようにしている。私の好きなアジア系の料理は彼の口に合わないので自分一人か友人と一緒の時しか食べられないし、推しのコンサートに行く時は事前に報告し、コンサート当日は出かける準備をしている間、不満げな表情を向けられる。これだけ趣味も性格も思想も正反対で、喧嘩を避けるため地雷を踏まないよう注意してまで一緒にいたい男なのか、とこれまで散々友人に言われてきたことだ。
だが仕方がない。何もかも自分と正反対で気難しい一面があっても、私は彼を愛しているし、彼以外の異性に興味がないのだから。
酒と4.5畳1Kとアラフォー女 nako. @nako8742
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