3 空を飛ぶ
俺は無音の空を切り裂きながら、悠然とチキュウの空を飛んでいた。
地面は遥か彼方、どこまでも続く大地が霞むほどの高度だ。
1年前には感じた、重力が俺を大地へ引き戻そうとするあの執拗な抵抗は、今ではほとんど意識の外だ。
Vel’dras nu’mor, il’kara syll’dari. Thal’ven ethereal—『Skyris』
本来はこの詠唱が必要だが、詠唱なしで飛翔魔法を発動する技術を体に刻み込んだ。
魔法の力を正確に制御するコツも掴み
俺の意識が「飛ぶ」と決めた瞬間、体は自然に宙を舞う
「以前の無様な姿が嘘のようだぞ」
神威の声が軽い調子で響く。
俺は鼻で笑いながら軽く旋回する。
体をひねり、翼もないのに滑らかに空気を掴む感覚が全身に伝わる。
前は、一度試すだけで全身の筋肉が悲鳴を上げていた。
だが今はどうだ。
「神威の助言がなかったら、ここまで来るのはもっと時間がかかったかもしれないな」
軽口を返しながら、俺は一気に速度を上げた。
体を前傾させるだけで
風が
一気に鋭い音へと変わる
大気の壁を突き破る感覚が
俺の体を駆け抜けるが
恐怖はない
ただ
空を自由に駆ける快感だけが
ある
高度を下げ、雲を裂くように潜り抜ける。
雲が水蒸気の粒となり、肌に冷たい刺激を残す。
前はこれに怯えて体勢を崩したものだが、今ではそれすらも心地よい。
俺の体は一瞬のブレもなく、鋭く進み続ける。
「修羅、前方から突風が来るぞ」
神威の声に応じる間もなく、俺は体をひねり、風を背負う形で加速した。
突風を利用する技術も、この1年で習得した。
風に逆らわず、その力を味方につける方法を体が覚えた。
「突風がチャンスだ、利用する!」
一気に風の中を飛び抜け、俺の体がさらに軽く感じられる。
遠くに見える地平線を見据えながら、俺はさらに高度を上げた。
地面は見えないほど遠くなり、空の色は深い青から漆黒へと変わり始める。
「降りるか」
俺は軽く息を吐き、急降下を始める。
体を軽く前傾させるだけで、風が鋭いナイフのように顔を打つ。
その音、感覚、すべてが俺の一部だ。
速度を極限まで上げたまま、俺は宙で体を翻し、急降下を制御する。
心臓が喉元に跳ね上がる感覚すらも、今では快感だ。
地面が猛スピードで迫るが、俺は冷静に体を起こし、風を抱き込むように減速する。
一息で着地する。
砂の上に軽く足をつけ、余計な音一つ立てない。
俺は大地に戻りながら、再び空を見上げた。
「この1年でさらに自由になった。だが、まだまだ」
慣らし飛行を終え一息ついてから、西側の軍の様子を偵察しに飛んだ。
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元勇者の修羅、現代最強の傭兵になる 魔石収集家 @kaku-kaku7
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