2 黒炎の覇者、戦場を駆ける

傭兵団との正式な契約をする前日。

「暇だな…」

軽く視察と運動をしておこうと思い、街から一番近い闘いの前線に降り立つ。


俺が足を踏みしめると、戦場の音が一瞬途絶えた。

戦車の轟音、爆発音、銃撃音――すべてが止まったような錯覚に陥る。

だが、それも束の間だった。

俺の体が反応するのと同時に、戦場が再び激しく動き出す。


目の前には、西側の戦車が迫っていた。

分厚い装甲の砲塔が俺を捉え、轟音とともに砲弾が放たれる。

だが、その動きは遅い。

俺は足を踏み込み、横へ跳ぶ。砲弾は空を切り目の前をかすめていった。


「無駄だ」呟きながら黒炎の霊刃を構え、その一振りで空気を切り裂く。

刃の軌跡が戦車を貫き、砲塔が裂ける。

戦車は爆音とともに停止し、煙を上げながらその場に崩れ落ちた。


俺は止まらない。

次の敵へと体が自然に動いていく。


上空から、無人機が編隊を組んで接近してくる。

数十機の無人機が俺を狙い、ミサイルを放ってきた。


それも見切っている。

地面を蹴り、瞬時に宙へ舞い上がる。

回転してミサイルをかわし一直線に無人機の群れに向かう。

黒炎の霊刃を振り抜くたび無人機は爆発し、空中で火花を散らしながら消え去った。


戦闘ヘリが迫る。

機関銃の雨が俺を狙うが俺は空中で回避する。

機銃の火線をかわしながら急接近し、霊刃を振るう。

刃が触れた瞬間、ヘリの機体は真っ二つに裂け、轟音とともに爆発する。

破片と炎が空を舞う中、俺はすでに次の一歩を踏み出している。


一切の無駄がない。

敵がどれほど迫ろうとも、俺には届かない。

目の前に広がる戦場が、まるで俺を試すために存在しているように思える。

どこを向いても、敵がいる。

だが、それでいい。

目的はただ一つ――全てを倒すことだ。


俺の目は大型戦車の群れを捉えていた。

分厚い装甲に守られたその巨体群を前に、一歩引き宙に魔法陣を描き始める。


指先を軽く動かすたび

透き通るような紋様が

空中に広がり

幾何学模様と古代文字が

輝きを放つ


爆裂魔法――

『「 砕 け ろ 」』

低く呟き、魔法陣に手をかざす。


空気が唸り

戦場全体が

一拍遅れて反応するような

錯覚

広がる


次の瞬間

魔法陣が閃光を放ち

凝縮された力が解き放たれた


戦車群の正面で閃光と爆音が重なり合い、装甲が爆裂魔法の衝撃波に引き裂かれる。

鉄の巨体がわずかに宙に浮き、砂煙と火花が荒々しく舞い上がる。

破片が四方に散らばり、それらは完全に沈黙。


崩れた残骸が静かに燃える中、俺は一歩前に進む。

東軍の兵士たちも西軍の兵士たちも全てが息を呑み、何もできず立ち尽くす。


俺にとってはただの戦場。

理を尽くし、魔法陣を描き、攻撃する――ただ、それだけだ。


激しく脈打つ心臓の鼓動が

耳の奥で響いている

深く

息を吐いた


確かな満足感が

俺を包んでいた




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