予想外

リンダはビデオ会議のソフトを開いた。慣れた手つきでマウスを動かしカーソルを動かしていた。外付けのカメラが傾いていたため机の上に置いていた片手を伸ばし、直した。リンダの顔が天井に固定された大画面テレビに映った。数秒遅れで複数人の男たちの顔が映る。それはリンダを不快な気分にさせる顔だった。リンダはその男たちの事を好いていなかった。男たちはそれぞれ高級そうなスーツに身を包み、日頃の怠惰や暴飲暴食の成果を見せつける体型をしていた。政府官僚、国防長官の面々がリンダをテレビの向こう側で見ていた。

「やぁスミス」

国防長官が口を開いた。ジュリスは高級そうな黒革の椅子に座り、その地位を見せつけていた。

「こんにちは、ジュリス。今回は何の会議かしら」

「あぁ、急に呼び出してすまない。今日は君に話があるんだ。いや正確には君たちと言ったほうがいいだろう」

「話とはなんです?」

リンダが聞いた。

「スミス君。ミア・ハーネスという人物を知っているかね」

「えぇ。うちの部門にいますが、それが何か?」

「ミア・ハーネスが赤の女王メンバーという事実は把握しているかね」

「えぇ、数十分前に知りました」

リンダは落胆の表情を見せた。ジュリスはリンダの返答に顔をしかめた。

「嘘を言われても困るよ、スミス君。ミア・ハーネスが赤の女王メンバーという事を以前から知っていた。それが事実だろう?」

軽く嘲笑しながらジュリスは言った。

「先ほども言いましたが数十分前に知りました」

リンダは表情一つ変えず言った。

「では君が今回初めて数十分前に知ったとしよう。すぐにでも報告すべきではないのかね。拘束などはしたのかね?」

「いえ、なにも。必要ないと判断しましたので」

「なぜ必要ないと判断したんだ?」

「彼女には赤の女王の記憶がありません。それが理由です」

「それだけ?」

ジュリスは目を丸くした。

「えぇ」

「そうか、君の発言次第では別の措置を考えたのだが、しょうがない」

ジュリスは固定電話でどこかにかけた。リンダはその光景を目にし思考を巡らせた。

「あぁ私だ。実行しろ」

その一言を言った後、受話器を戻した。

「今、君たち記憶改竄部門解体作戦を実行した。スミス・リンダ、及び記憶改竄部門全職員を国家反逆罪の罪で拘束する」

ジュリスは淡々と告げた。リンダは固定電話の受話器を取り、番号を打ち込んだ。なかなか繋がらない。

「クラークはもういない」

ジュリスは背もたれに身を委ねながら言った。

「なんですって?」

リンダは思わず聞き返した。他部門も統括しているクラークがいないという意味がわからなかった。彼女は彼女のボスであるクラークに助けを求めようとしていた。

「クラークはつい先ほど解任されたよ」

「なぜ彼が解任されたんです?」

「一言で言えば、彼は知りすぎた。知りすぎたんだ」

「あなたが解任したんですか?」

「いや、大統領だ」

「大統領が?」

リンダは開いた口が塞がらない。大統領がCCAのボスを解任させた。それはなぜか。リンダにはわからない。

「ただいま記憶改竄部門に部隊を派遣した。これより記憶改竄部門を解体、そして全職員を拘束する。今後は君たちと意思疎通は行われない」

画面が途切れた。リンダは受話器に手を伸ばした。

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