第3話 再就職
席についてから数秒後。
我に返った俺は、早速後悔に苛まれていた。
『場合によっちゃ、このパーティーに入ってもいい』
何言っちゃってくれてるんだよ、数秒前の俺ぇ!?
場合によっちゃ!?
そんな場合、あるわけねえだろうが!!
「入ってくれるかもって! よかったねー!」
「ふぉー……!」
「場合によっては、だ! まだ期待はするなよ!」
……いや、お前が一番期待しまくりな目してるよ?
目、キラキラしまくってるよ?
どうしよう、これ。
やっぱり無しで! とか言って、話し切り上げてさっさと帰るか?
いやでも、そんなことしてこいつら泣かせたら、あとで絶対チェルシーちゃんに怒られるし、最悪嫌われるよな……。
仕方ない。
話だけでも聞くか。
「まずは自己紹介をさせて欲しい。ワタシはヴァイオレット・フィエル、〈
藍色の髪を首の後ろで括った、凛とした佇まいの女性。
軽鎧を身に着け一見近寄り難い雰囲気を漂わすが、大きすぎるおっぱいは隠せておらずどこか間抜けで大変えっちだ。
「そして、この騒がしいのはエリシア・リアトリス。朝でも夜でも基本的にテンションが高くて少し鬱陶しいが、とてもいい子だ」
「よろしくお願いしまーす!!」
長く艶やかな金の髪と超弩級のおっぱいを揺らしながら、エリシアは元気いっぱいに立ち上がり手を挙げた。あっけらかんとした性格が服装にも表れているのか、やけに薄着でゆるゆるなせいで大変えっちだ。
「最後に、この無表情なのがゼラ・エヴァーゴート。滅多に笑わないが、別に不機嫌なわけじゃない。何だったら今日は上機嫌だ」
「……よろしく」
雪のような髪を肩のあたりで短く切り揃えたその女性は、いえーい、と俺に向かってピースした。
ゆるそうな頭のネジに対し、やけにピッチリと身体に張り付く服を着ていて、もうおっぱいがとんでもないことになっていて大変えっちだ。
「まさか、ワタシたちのために時間を割いていただけるとは……本当に何とお礼を言っていいか……!」
「知り合いに頼まれたんだ、会ってやってくれって。……んじゃ、早速金の話をしよう。そこの折り合いがつかなきゃ、ダラダラ話したってお互いに時間の無駄だしな」
「そ、そうだな!」
コホン、とヴァイオレットは咳払い。
俺は足を組み直し、小さく息をついた。
確かにこいつらのおっぱいは凄まじいが、だからといって一緒に仕事をする理由にはならない。
手が出せないおっぱいより、手が出せるチェルシーちゃんだ。
「うちのパーティーは、少し前までCランクでもっと活気があった。だが、ちょっとしたトラブルでメンバーはもうワタシたちだけ。ランクも降格されて、正直まともなお金を支払う余裕はない」
「だったら、この話はここで終わ――」
「しかし! ワタシは、このパーティーの……いや、エリシアとゼラの可能性を信じている! この二人なら、いずれ素晴らしい冒険者になる! Sランクだって夢ではない!」
何を暑苦しい妄言を垂れてるんだ。
――と、一蹴してやりたいところだが。
ヴァイオレットの主張は、まったくの無根拠というわけではない。
―――――――――――――――
エリシア・リアトリス
【火神の加護】
―――――――――――――――
―――――――――――――――
ゼラ・エヴァーゴート
【戦神の加護】
―――――――――――――――
先ほど付与魔術で彼女たちのバストを測った際、一緒にどういう能力を持つのかも読み取っていた。
――加護。
それは、世界から与えられる祝福。
魔術とは違い、理屈や理論を無視した異能。
こいつがあれば、風を意のままに操ったり、何もないところから水を生み出したりできる。
非常に強力な代物だが、それなのにこいつらが最低のFランクパーティーなのは、皮肉なことに加護があるせいだろう。
自分の加護のせいで身を滅ぼすやつがいるくらい、こいつの扱いは難しい。
戦いに活かすどころか、むしろ足を引っ張ってしまう。
……だから、俺を勧誘したわけか。
付与魔術師の仕事は、基本的には味方の支援だ。
確かに俺なら、こいつらの力を上手く制御して最適な使い方ができる。そうなったら、Sランクも夢ではない。
「今、ワタシたちには何の支払い能力もない。だが、もしも加入してくれるなら、〈白雪花〉が続く限り依頼報酬の70%をレイデン殿にお支払いしよう! ……それで、どうだろうか?」
「な、70%……?」
「もちろん、書類作成やギルドへの報告などの雑務はこちらで行う! レイデン殿の手を煩わせることはない!」
Fランクじゃまともな仕事はないが、俺が加入すればランクなんて簡単に上がる。
そうなれば依頼報酬の桁も跳ね上がるし、その70%を貰えるってのは……うん、正直悪くない。〈竜の宿り木〉にいた頃より給料は上がるな。
だけど、〈黒金の牙〉は契約金だけで30億ゴールドだしなぁ。
一撃のデカさじゃ向こうの方が圧倒的に上だし、〈
やっぱり、断っとくか。
1500チェルシーは逃せねえよ。
「そ、それと……! え、えっと、その……もう一つあって……!」
「ん? 何だよ」
「エリシアとゼラは席を外してくれ! こ、ここからは大人の話し合いだっ」
「はーい!」「わかった」と部屋を出て行き、なぜかヴァイオレットと二人きりになった。
何でこいつ、顔真っ赤なんだ……?
「……Sランク冒険者であるレイデン殿には、きっとうちよりも遥かに魅力的なパーティーから勧誘が来ているだろう」
「そりゃあ、まあな」
「だから……その穴埋めというか……す、少しでも足しにならないかと、思ってだな……」
もじもじと身をよじって、太ももを擦り合わせて。
今にも爆発しそうなくらい焼けた顔で、バッと勢いよく立ち上がる。
「ワタシを……だ、抱いてくれっ!!」
「…………は?」
「レイデン殿は娼館通いが趣味だと聞く! 一日でも女を抱かなければ、泡を吹いて死ぬとか……!」
世間で俺、そんな風に言われてるの!?
流石にそこまでじゃないよ!?
「自分で言うのも何だが……ワタシは、か、顔も見た目も悪くないはずだ!」
ぷるんと、ヴァイオレットのおっぱいが揺れた。
「依頼報酬の70%と、ワタシの身体……!」
チェルシーちゃん以上の、Sカップのおっぱいが揺れていた。
「これでどうか、〈白雪花〉に入ってくれないか!?」
俺の理性を刈り取るような、禍々しい弧を描いて。
ぷるんと、揺れていた。
……い、いやいや。
この女、俺を舐めすぎだろ。
確かに俺はおっぱいが好きだ。
巨乳の女とヤるために生きてる。
老後は、世界中の乳のデカい女を支援するチャリティー団体でも立ち上げようかって思ってる。
そんな俺の目の前にSカップが現れたんだから、そりゃあテンションも上がったが……だからって、Fランクパーティーには入らねえよ。
こちとら、世界最高峰のSランク冒険者様だぞ。
同じSでも価値が違うんだ。
ったく、甘く見やがってバカがよぉ。
「お試しにワタシの胸を……ひ、ひと揉みくらい、してもいいぞ?」
「…………」
◆
数時間後。
「お前ら、よく聞け! 依頼はゴブリンの巣の殲滅! やつらはモンスターの中じゃ雑魚の部類だが、爪がものすごく鋭くて危険だ! 絶対に油断するなよ!」
「はーい! わかったー!」
レイデン殿の声に、エリシアは天真爛漫に手を挙げた。
ゼラも上機嫌そうに、フンフンと鼻息を荒げながら身体を揺らす。
喜ぶのも無理はないだろう。
Sランク冒険者――傀儡廻のレイデン・ローゼスがうちに入ってくれたのだから。
ワタシも喜びたい。
全力で喜びたいが……正直、複雑な気持ちだった。
『うわぁー! すっごい! すっごーい! うわうわっ、これがSカップ!? すごいすごい!! うわーっ!! うん、パーティー入る!! 入らせてください!!』
ワタシの胸を躊躇なく揉んで感動に震え、バカ丸出しな顔で加入を決めたレイデン殿。
本当にこの人は大丈夫なのだろうかと不安が渦巻き、ワタシは頭痛を覚えた。
だが、ゴブリンの巣に入って間もなく、ワタシは身をもって思い知る。
彼が世界でたった五人しかいないSランク冒険者である、その意味を――。
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