エンド・オブ・アルゴリズム

釣ール

二〇二×年十一月~十二月

 アルゴリズムは人間が生み出した計算方法や処理方法らしい。

 くわしい話は大学か理数りすう系の人間に聞けだなんてストレスたまること押し付けてくるなよな。


「自分は専門家ではないので答えられないのですが」


 くらいの前置まえおきを忘れない生き物になりたい。

 意思があって言葉をしゃべれるのならもっと相手もいたわら方が過ごしやすい。

 もちろんそれはそれで生きづらいけど。


 俺たち『エオルゴ』はアルゴリズムによって計算されつくした生き物のれのて。


 そこには人間も動物も植物もない。

 生存競争せいぞんきょうそうのなごりで多少の差別はあったがおたがい〝わかりあえない者同士〟生きている。


 誰のせいか知らないが夏の暑さは長引きいつの間にか寒さがやってくる日本が一番住みやすい現実がにくらしい。


 それじゃ治安ちあんの悪い場所で住んでる人間が馬鹿みたいじゃないか。

 って人間の子供みたいな正義感と共に汚れてしまった俺たちは何も出来ずに暮らしている。


 十一月の寒さから十二月の寒さなんてたいして変わらないさ。

 地域によるかもしれないけど。


 俺たちは人間じゃないという理由だけで価値を決められてもうどうすることも出来ない科学と社会の判断はんだんで捨てられた。


 世間体せけんていのために時代遅れの幸せをもとめてあらそう自称弱いもの。本能のためにまっとうな性格になった現代の若い人間は最低限のくらしを目指し恋も遊びも割り切っている。


 人間の作り事にたいする執念しゅうねんはいけ好かないくらいクオリティが高い。


 現実を知りすぎるのも大概たいがいだ。


 そして彼らの脚本きゃくほんには俺たち『エアルゴ』は存在しない。


 誰にも興味を持ってもらえない架空かくうの強い人間を作り上げて意味のない能力主義のうりょくしゅぎ才能主義さいのうしゅぎにみな疑問を持ちながら過ごしやすい選択を今日こんにち強制きょうせいされる。


 もうさんざん警告けいこくしても周りの人間は誰も助けない。

 治安のいい国らしい日本ですらそう。


 エオルゴも最終的にうやむやを覚えて人間たちと共存きょうぞんしているから伝えよう。


 どれだけ苦労や苦悩をしようと他の国や他の地域で似た人間を見つけても結局分かりあえない。


 分かりあえても長続きする努力がいる。


 崩壊ほうかい大前提だいぜんていなのを忘れて居場所を求めるなんてあほらしいのだ。

 そんな分散ぶんさんなんてエアルゴでも無理。


 裏ではがさつ。

 表では偽善ぎぜん


 エアルゴにもある感情が人間にないわけがない。


 少しふでがのったら今年も雪がふってきた。

 異常気象のあとの寒さ。

 これでも暖冬だんとうらしい。


 これは予言でもなんでもなくてただのいちエアルゴが書く感想だ。


 おそらく問題を引き伸ばしたリスクを人間はうことになる可能性は高いと考えた方がいい。


 その時できる人間の行動は『いつもと変わらなければいい』と過ごしていく現実がやってくるだけ。


 そんな現状げんじょうに問いを立てられる人間がいるかいないか。

 何も問いを立てられなくなった時、俺たちエアルゴのように共存できない人間はほろびのみちを歩むしかなくなるかもしれない。


 だからといって俺たちエアルゴは人間たちを支配しはいなんてしやしない。

 そのまま暮らして消えていくだけさ。


 ゴキブリとネズミに地球をまかせて。


 一ヶ月分の記録だってのに書くことが少ない。

 他のエアルゴにいつかはバレるかもしれない恐怖におびえながら辺りを見る。

 紙や電子機器へ記録はしていないからいいか。


 まあ最後は飲み込んでしまうか。

 書いただけで満足まんぞくしてしまったから。


 俺たちも人間もどこまで生きていても葛藤かっとうし続ける道を進む以上、出会いと別れはさけられない。


 どれだけ過去で美談びだんにしても。

 未来で伝説になったとしても。


 苦しかった時は元にもどせない。


 俺たちが生き続けていく未来。

 俺が書き続けるこれから。


 お前たちがまったく予想していない出来事が起きた時を楽しみに考えておこう。


 いじわるだとでもなんとでも言えばいい。

 さらに俺は何度でも言う。


 




 それから記録をつけるのをやめた。

 なれちまった。

 悪い意味で。


 書いたやつも飲み込んだしさ。

 もうすぐ俺の記憶からも書いた内容は失われていく。


 人間から冷たい目で見られたっていつもどおり歩くだけ。


 気を取り直して目からさめよう。

 処理しょりしきれない地獄このよにもどるため。



〈了〉

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