パラレル・スクール

沼津平成

第一形態

第0話 万人帰る

 腕時計を見やると、もう十七時十分。

 そりゃそうだ。

 空を見てみろ、赤と青の入り混じった紫色をしている。

 

万人かずとぉー、早く帰れぇー」


 体育教師が、グラウンドを走りながら僕に声をかけた。

 僕は相原あいはら万人。

 ごく普通の帰宅部。

 帰宅部の僕だがその実態は不器用の極まりで、忘れ物を取るということで食堂・教室・体育館・寮・東棟・部室を数往復して、やっと正門に到着したところだった。

 おい体育教師。これグラウンド5周より全然きついぞ? 今度やってみ?


『なんで俺がそんなのやんなきゃいかんのだ』と声が飛んできそうだが、僕はそんなことを思いながら正門を後にした。


「もしかして万人くん?」と声が飛んだ。この声の大きさ、遠くからだ。そして僕はこの声の正体をわかっていた。クラスメートの西倉沙織にしくらさおりだ。


「沙織、今どこにいる?」


「交差てぇーん」


 僕が近くの信号を見やると、ブンブン手を振る沙織が見えた。

 僕は笑顔を作りながら沙織を追いかけた。


「沙織……!」


 駆けていると、もう最終コーナー。僕は一瞬振り返って学校を見て、


「え……?」


 その姿に驚いて、立ち止まってしまった。


「どしたの?」


 沙織が僕の方へ向かってきて、


「え…………」


 その姿に釘付けになった。

 あれは間違いなく——

 

 


 

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