第5話 揺れる空気

朝の冷たい空気が家の中にも漂い、窓から差し込む柔らかな光が部屋を照らしていた。私は相変わらず布に包まれたままで、手足を少しずつ動かすことしかできない。それでも、状況を観察しながら頭の中で考えを巡らせる日々が続いている。


「昨日の男たちがまた来たらどうしよう……」


そんな不安を抱えていると、遠くからまた足音が聞こえてきた。複数の人間の足音――重く規則的な音は、明らかに大人の男たちのものだ。


「……また?」


心臓が早鐘を打つ。私が引き起こしたものではないかという罪悪感と、何もできない無力感が入り混じり、胸がざわざわと騒ぐ。




父親が窓の外を確認する。視線が険しくなり、母親に短く何かを伝えると、彼は戸口の方へ歩いていった。母親は私を抱きしめ、布をさらにきつく巻き付けて私を隠すようにする。


「守ろうとしてくれてるの……?」


母親の腕の中は温かく、彼女の震える手から、彼女自身も恐れているのが伝わってくる。それでも私を守ろうとするその強さが、心に響いた。




数分後、父親と誰かが話している声が聞こえてきた。昨日の男たちとは違う。声のトーンが穏やかで、どこか冷静さを感じる。私は安心したい気持ちを抑えつつ、耳を澄ませた。


「……誰?」


母親がそっと窓の外を覗き見る。その瞬間、彼女の体が硬直したのがわかった。




足音が家の中に響く。父親が入ってきた後ろには、二人の男が続いていた。彼らは簡素な服を着ているが、どこかきちんとした雰囲気を持っている。一人は年配の男性で、もう一人は若く、武器を携えていた。


彼らは父親と短く言葉を交わした後、母親にも目を向けた。私を抱える彼女に視線を落としながら、低い声で何かを話す。母親はしばらく逡巡していたが、やがて私を見つめ、そっと頷いた。


「何が……起きてるの?」


母親の腕が緩み、私はそのまま男たちの視線にさらされる形となった。若い男の目が、私をじっと見つめる。鋭いが、どこか興味を引かれたような瞳。その瞬間、私の中であの温かい光が再び湧き上がる感覚がした。




「やめて……!」


心の中でそう叫んだが、私の体は再び指先に淡い光を宿してしまった。男たちはその光に気づき、驚いたように目を見開く。年配の男が父親に何かを言い、若い男が一歩私に近づいた。


「……いや、来ないで」


若い男は慎重な動きで私を見つめながら、何かを口にする。その言葉は相変わらず理解できないが、彼の表情には敵意は感じられなかった。それでも、私は恐怖で体を震わせることしかできなかった。




年配の男が若い男の肩を叩き、二人は何かを話し合った後、再び父親に向き直る。彼らはしばらくの間、低い声で話を続けていたが、最終的には父親が力なく頷き、母親に短く指示を出した。


母親は私をぎゅっと抱きしめ直し、優しい目で私を見つめた。その目には不安と愛情が交錯しているのがわかる。




男たちが帰った後、父親は深い溜息をつきながら椅子に腰掛けた。母親は私を布に包み直しながら、何かを話しかけてくる。その声はどこか慰めるようで、同時に自分自身を落ち着かせようとしているようだった。


「……私は、どうなるの?」


周囲の大人たちが何を話し、何を考えているのかがわからない。私の中にあるこの異質な力が、彼らにどのような影響を与えているのかもわからない。ただ、私がこの世界に存在していることが、明らかに何かを動かし始めているのを感じていた。


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