第3話 新しい生活の始まり
目が覚めると、私はまたあの木でできた天井を見上げていた。慣れてきたと言えば聞こえはいいが、赤ん坊の体は寝ている時間が長い。考える時間もあるが、行動できる範囲が狭すぎる。
「……どうしたらいいんだろう」
何もできない自分に苛立ちを感じながらも、まずは状況を把握することに集中しようと思った。
女性――おそらく私の母親にあたる人――は私を抱きかかえ、何かを話しかけてくる。彼女の声は心地よく、安心感を与えてくれるが、言葉は相変わらずわからない。それでも、少しずつパターンが見えてきた。
例えば、私が泣き声を上げるとき、彼女は「セラ」とか「ナーダ」といった単語を口にする。その声色や仕草から察するに、泣き止ませようとしているのだろう。
「言葉を覚えるしかないな……」
そう考えた私は、聞こえてくる単語をひたすら心の中で繰り返すようにした。この言葉がわからなければ、この世界で何も始められない。
周囲を観察する時間も多くなった。家は木と石を組み合わせた簡素なつくりで、家具や道具も原始的だ。鍋や皿は陶器のようだが、形は歪で手作り感が強い。それでもこの家には「生活の温もり」が感じられた。
母親のほかに、家には年配の男性がいる。この人はおそらく父親だろう。彼はいつも外に出て何か作業をしている。薪を割ったり、道具を整えたりしている姿を、母親が時々窓越しに見守っている。
「原始的だけど……これがこの世界の普通なんだろうな」
少しずつ、この生活に慣れ始めている自分がいるのを感じた。
ただ、一つだけ不安なことがある。
私の体から漏れ出すあの「光」――魔力としか思えないそれが、時折自分の意思とは関係なく現れるのだ。
例えば、ある日のこと。母親が私を抱いているとき、ふとした拍子に指先が淡く光った。母親は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに優しい笑顔で私を撫でた。
「……怖がってない?」
そう思って安心しかけたが、彼女が父親と何か真剣に話し合っている姿を見たとき、嫌な予感がした。
さらに、その予感が現実になりそうな出来事が起きた。
ある日、家の外で誰かが大きな声を上げた。私の父親が慌てて外に出て行き、母親もその後を追った。私は布の中に置かれたまま、何もできずに声を上げることしかできなかった。
しばらくして、父親が戻ってきたとき、その後ろには見知らぬ男たちがいた。彼らは粗野な格好をしており、何か武器のようなものを持っている。
「……なに、これ?」
彼らは父親と母親に何かを要求しているようだった。その口調は強く、威圧的だ。
母親が私をそっと抱き上げたとき、私は再び体が光るのを感じた。母親は驚き、慌てて布で私を包み隠す。それでも、男たちの目は一瞬こちらに向けられた。
「あの光……私が原因?」
胸の奥がざわざわと騒ぐ。この光は、自分を守る力なのか、それとも災いを呼ぶものなのか。答えが出ないまま、私は母親の腕の中で再び静かに眠りについた。
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