返済不可能報告書

 俺には借金がある。いつまでも膨れ上がる借金だ。その借金を返済する為に頑張って働いている。会社では、誰よりも働き売上を出して、人一倍件数も消化している。終電まで働き、食事も最低限で済ませ、会社で寝泊まりすることもしょっちゅうだ。売上は最優秀、表彰とインセンティブもかなりの量。それなのに俺の借金は膨らんでいく。金をいくら稼いでも、借金は返済できず膨らむばかりだ。


 ある時、妻から子供と遊んでほしいと懇願された。子供の相手など知ったものか。さすがに疲れたと自室で眠ろうとした時、借金がわずかに膨らんでいたのに気が付いた。なぜ眠るだけで借金が膨らむのだ。


 不思議に思い、試しに子供と遊んでみた。借金が少しだけ減っていた。どういう事かわからないまま会社に行き、もしやと思い、他人の仕事を手伝った。借金が少しだけ減っていた。昼飯を奢り、残業を咎め帰らせた。借金が減った。ノルマを肩代わりし、売上を折半し、他人に表彰を譲り、働き方を改革し、妻と子供で外食に行く。すべて借金が減ったのだ。なるほどと確信を持ち、ローンを組んで妻の実家近くに家を買った。やはりおかしなことに借金は減っていた。


 俺には借金がある。完済は難しいかもしれないが、しかし日々は返済の喜びに満たされている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る