第2話 15年前の教室
「え〜改めまして、今日から1年間 このクラスの担任になりました
「!?」
左右後ろに机と椅子が並んで、制服の生徒が座っている。
9時20分を指しているシンプルな時計に、木の匂い。
——ここは教室か!?
そして今目の前で話しているのは......水野....先生?
確かこの人は新卒2年目の先生で俺が高一の時の担任だよな?
なぜここに......!?
そういう俺は......真新しい制服を着ているようだ。伸びた汚い髭と薄汚れた臭い服ではない。ありえない......。ありえない光景が目の前に広がっている。
「え〜今週末から徐々に授業が始まっていきますが——」
俺は、本当に15年前に戻ったというのか!?
あの自称悪魔の女の子の言ったことは嘘じゃなかった......?
「まずはオリエンテーションなど色々皆さんに伝える事項が多いので——」
日付を見ると2025年の4月7日とある。おそらく入学式後のオリエンテーションか何かだろう。確かにここは15年前の世界で、俺自身も15年前の自分に戻っている!
「来週からは部活動見学とかも始まってくるので楽しみにしててくださいね——」
やった......俺はやったのだ。本当に過去に戻れた。
思わずその場でガッツポーズをしようとしたその時————
ガッ!
「いて......!」
俺は机の淵に腕を引っ掛けて思いっきりぶつけた。
ざわざわ————
「田中....くん?大丈夫」
クスクス ヒソヒソ————
周りが小さくざわついている。俺は初っ端からやらかしたようだ。
過去に戻っておよそ数十秒。すでに穴があったら入りたい状態だ。
「だ、大丈夫ですw ぼーっとして意識失ってました すみませんww」
「こら〜w ぼーっとしちゃダメでしょ気をつけてねww フフ」
「ハハハ あいつ面白えなww」
「いいねw」
————————あれ......?
俺は今、咄嗟に先生の言葉に普通に返した。いや——返せたのだ。
コミュ障にしかわからないことだが、俺みたいな人間は誰かに突然話しかけられたり、周りの注目を浴びると基本声が出なくなる。声が出たとしても、意図せず変な返しをしたり、キモい行動をとって自爆する。——そうやって周りからヤバい人間扱いをされて孤立していくのだ。
それなのに俺は今、噛みもせず・オドオドもせず・変な言動もせずに、ある意味普通の返しをして見せたのだ。
これがコミュ障にとってどれだけすごいことか、読者なら分かるだろう。
しかも空気で何となくわかる。今の一言で、周りから軽蔑されるようなヒソヒソではなく、『あいつ面白えな』的な雰囲気に変わったのだ。
これってもしかして————。
あの自称悪魔が言ってた——『対人間力レベル』ってやつか!?
確かに上がっている。もちろんチートスキルほどのものではないが、咄嗟にどんな言葉を返せば当たり障りなくその場をやり過ごせるかが、頭の中でクリアに引き出された——そんな感覚だった。間違いなく以前の俺にはできなかった芸当だ。
「あれ、田中くん.....?だっけ」
「ん......?」
すると隣の席に座ってる女子が俺に話しかけてきた。
「....!」
思い出した!この子は......確か————
——橘.....!
後にチア部の副部長になる子で、体育会系では一二を争うカーストトップに君臨すえる部活で一番可愛いと言われた橘さん!!
身長は154cmと小柄ながら、強めの綺麗系美人でリーダシップに長けていて、体育祭や、他大会の応援では一年生の頃から目立って『あの可愛い子は誰だ』と噂になった子だ。
クラスが一緒になったのは一年生の時までで、俺は3年間一度も会話をせずに終わった美女の一人だ。
そんな子がなぜ俺に話しかけてくれたんだ......?俺が浮かれていると橘さんは————
「————田中くん、手から血が出てるよ......その、大丈夫??」
「え......!?」
手元を見ると、俺の右手から血が出ていた。というか少しだけ流血してる......。
「うわっ!!痛!!嘘お!?」
それほど痛くなかったが、まさかの流血にびっくりした俺は思わず大きな声を出してしまう。
「田中くんだっけ?大丈夫?」
「何だ何だ??」
「うわ痛そ〜」
「うっそ〜〜血出てるの??」
周りも騒ぎ出してしまった。てかこれ大丈夫そうか?また注目を浴びてしまった。
「ちょっとみんな静かにー!! 田中くん、保健室の場所わかる?」
「保健室....ですか?」
高校の頃の保健室の場所は正直もう忘れてしまった。だいたいうちの高校は校舎が広すぎるのだ。ぼっちだった俺は行動範囲も狭く、授業後はそそくさと帰ってしまっていたので、結局3年間校舎の全体図を把握しきれずに卒業した気がする。
「えっとわかんないですね」
「そ、そうよね そしたら先生が連れてくのでみんな教卓にあるプリント協力して回して、少しだけ待っててね〜!」
なんかすごい迷惑をかけてしまったような......。対人間力レベルが上がっているとはいえ、この状況を挽回できるのだろうか?俺は少し不安になってくる。
「じゃあ行くわよ」
「はい、すみませんいきなり怪我しちゃって」
「しょうがないわよ 一旦ティッシュで血止めて?」
「はい」
先生にも迷惑をかけてしまったが、待たせてしまう生徒にも申し訳ないと思って、教室を出る時に軽ーくみんなにお辞儀をして謝った。
「すいませーん」
さっきの騒ぎとは打って変わって、この時のみんなのリアクションはほとんどなかった。そりゃそうだよな......。クラスに仲良い人がいるわけでもないし。
「田中くん、血止まった?」
「あ、はい多分大丈夫です ホントすみません初日から流血事件起こしちゃって」
「とりあえずよかった 早く戻ってみんなを安心させてあげてね これから楽しい高校生活が始まるんだから」
そうか......これから楽しい高校生活が......。30歳になった俺からしたらとっくに年下になってしまった水野先生にこんなことを言われるなんて。懐かしいというか変な気分だった。そうだよな、俺は今15歳の高校一年生なんだもんな。
水野先生はおそらく当時23か24くらいの年だったと思う。正直俺は必要なやり取り以外は会話をしたことがなかったが、美人で優しくて、年齢も一番近いことから、生徒からも慕われていたのを覚えてる。
今改めて見てもほんとに綺麗な先生だ。女子だけでなく男子からも死ぬほどモテてたっけなあ......。水野先生のクラスの生徒たちは当時、こんな綺麗な先生が担任になってワクワクしてただろう。
————ところがこの年の夏、水野先生はある事件がきっかけで、心を壊し、教師を辞めてしまう。
この時はまだ、誰も予想していなかっただろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ここまで読んでくださりありがとうございます!!
読者の方が迷子にならないように今回登場した2名の人物をおさらいします。
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エッッッな展開を期待していた方、焦らしてしまっていてすみません!!
これからたくさん出していきますのでお楽しみに!
次回は自称悪魔との例の条件が明らかになります〜〜〜
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引き続きよろしくお願いいたします。
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