Ⅲ
都さま
メッセージをいただいてから、なかなかお返事ができずに申し訳ありません。都さんのお父様・征紀の妻です。突然のご連絡で驚かれたことと思います。
実は、夫の征紀が二日前に亡くなりました。
二年ほど前から病気を患っており、治療をしながら入退院を繰り返していたのですが、ここ数ヶ月は状態が悪くなり、ほとんど寝たきりの状態でした。
そんな状況でも、征紀さんは都さんのお誕生日は毎年覚えていて、いつも苺のケーキを用意してひっそりとお祝いをしていました。
迷惑かもしれないと思いながらも、征紀さんが最後に都さんと連絡を取れないかと考えたのは、私です。息子(私の前夫との子どもです)に頼んで、征紀さんのSNSのアカンウトを作り、都さんを探してもらいました。
誕生日のお祝いメッセージに都さんからの返信が来たとき、征紀さんはとても喜んでいました。身体が弱って長いことスマホを見れないことや、短い文章しか都さんに送れないことを残念がってもいました。
都さんからの結婚の報告も、とてもとても喜んでいました。お祝いも無事にお手元に届いたようで、安堵しております。
先日いただいた都さんからのメッセージと結婚式のお写真も、ニコニコしながら嬉しそうに眺めておりました。
よほど嬉しかったのでしょうね。ずっと寝たきりだったのに、その日はひさしぶりに外を歩くことができたくらいです。早く元気になって都さんに会えるようにと意気込んでおりました。
私も征紀さんの回復を信じて願っておりました。ですが、それは叶うことがありませんでした。
征紀さんは最後まで、都さんのことを思っていました。最後に、征紀さんに生きる希望を与えていただきありがとうございます。
***
葬儀の日。
ひさしぶりに会う父は、棺の中でとても穏やかな顔をして眠っていた。
もっと早く言えればよかった。
もっと早く会いにくればよかった。
ごめんね。ありがとう。
「お父さん、だいすきだよ」
泣きながら閉じた瞼の裏に浮かぶのは、苺パフェの向こうでニコニコと笑う父の顔だった。
Fin.
悔恨と苺パフェ 月ヶ瀬 杏 @ann_tsukigase
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