1.5
目を開くと、見慣れた天井があった。
息苦しい。寝たのに寝た気が一ミリもしない。
夢だと思いたかったが、嫌というほど記憶は鮮明だった。
そして部屋の隅には、昨日神社から持ち帰ったイネさんの和装があった。
「マジかー……いやマジか。宗教団体ってどうやって設立すんだ?」
虚空につぶやくが、答えは返ってこない。
とにかく気分が悪かった。
この頼まれごとにいったい誰がいくら金を払ってくれる? 新興宗教作ってタダ働き? ボランティア? くっそふざけんな。せめて報酬よこせ。俺は無償労働が死ぬほど嫌いなんだ。
やがて意識が明瞭になるにつれ、俺の体は違和感を訴え始める。
息苦しい。胸が重い。あと、五月っつーのにクソ暑い。
毛布を剥がすと、そこには、人の姿のイネさんがいた。
俺の胸の上に頭を載せる彼女は、狐のように鼻をひくつかせ、匂いを嗅いでいた。
一糸纏わぬ裸で。
「……穂保比売様。やつがれは、やつがれは……」
まるで、俺にまとわりついた女神サマの匂いにしがみつくような寝言だった。
だが俺はその続きを聞くよりも先に、悲鳴をあげて彼女を引き剥がしていた。
「ぬぉ……なんじゃ」
寝ぼけ眼の抗議も無視し、俺はこみ上げてくる口元を押さえて便所に走る。
そして盛大に吐いた。
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