第3話 北陸方面軍の幻獣士たち

 北部方面軍は各地の敵を制圧しながら、着実に進軍していた。越国から磐城国に入ると、また新たな敵勢力と遭遇していた。

 兵士たちの緊張をよそに、北陸方面軍配属巫子のオトスズヒメ周辺ではのどかな時間が流れていた。季節は春から初夏に移り替わろうとしていた。

 同じく北陸方面所属のサイナギノミコトの前に大蛇が現れた。サイナギノミコトは突然の大蛇の出現に驚きつつも、逃げる様子もなく、慣れた様子で落ち着いていた。

「驚かすなよ。スズ、お前だろ」

「へへへ・・・」

 大蛇の周囲から煙が発生し、大蛇の姿は煙の中に隠れた。煙が晴れるとそこから一人の少女が出現した。大蛇の正体はオトスズヒメであった。団子の秘術により変化していたのであった。

「あんまり、団子たべすぎるなよ」

 サイナギノミコトはオトスズヒメに注意を促した。オトスズヒメは巨獣に変化が可能な巫子、つまり、幻獣士である。一方でサイナギノミコトはその世話役なのである。

 神に仕える巫子の中で、その才能が見いだされたものは特殊な訓練を受け、巨獣変幻の術を習得する。トリガーは団子である。団子を飲み込むことで、巨獣になり、時間がたつと術が解ける。変幻の際には周囲に煙が発生するのである。

 サイナギノミコトも以前は幻獣士の候補生であった。しかし、厳しい訓練の結果、与えられた評定は基準を満足せず、幻獣士には選ばれなかった。今は、幻獣士の活動支援のため従軍している。役割は後方支援であるので、戦闘には参加しない。

 サイナギノミコトは「団子を食べ過ぎるなと」いった。理由は何なのか?団子による変幻するたびに寿命が少しずつ縮むからである。ただ、いくら寿命が縮むといっても十六歳以下にはなることはない。また、変幻の際に体力を大幅に消耗してしまったり、団子を一気に食べ過ぎたりすると人間の姿に戻れなくなると言われている。

 正確な年齢はわかっていないがサイナギノミコトとオトスズヒメは同い年で十五歳と言われていた。しかし、オトスズヒメには何か年上の女性の雰囲気が漂っていた。

 そのオトスズヒメは本陣の司令官に呼ばれた。出撃命令であった。


 北陸方面軍の陣地をとびだった怪鳥は、直接、敵の山城には向かわなかった。怪鳥は磐梯山の上空にたどり着くと急降下して磐梯山の火口へと突入。溶岩の塊を把持はじすると、再び上空へと舞い上がった。

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