第2話 倭国の崇神天皇

 大和盆地の高台の屋敷で崇神すいじん天皇は側近から報告を聞いていた。

 朝から会議を開くから朝廷である。崇神天皇は朝食を口にしながら耳だけで報告を聞いていた。

「魏の使者を乗せた船が吉備児島沖で温羅おんら王丹おうにに襲われました。使者は帰国できたようですが、積み荷が奪われたようです」

「何?では、我が国の位置などが書かれた書は失われてしまったということなのか?」

「おそらく。しかし、使者は帰国したので、視察した内容そのものはそのまま伝わるかと」

「それは仕方ないな」

「いまさらながら、気になることがあります。彼らは占いで祈祷する巫女のことを、国王と勘違いしていたようです」

「それはまた、大変な勘違いだな」

 崇神天皇は朝食を食べ終わり、侍女が口元を布で拭いていた。その時点で、崇神天皇は吹き出し始めた。天皇は食事が終るまで笑いをこらえていたのだ。

「わっはっはっは。巫女が女王とはそれは面白い。日の巫女だとしたら日巫女ひみこといったところか。ハッハッハ。まあ、魏は全土を支配しているわけではないし、すぐに滅亡するやもしれん。その程度のこと特に気にしなくてよいだろう」

「その温羅なんですが、どうやら、団子を使うみたいなんです」

 天皇は団子という言葉に鋭く反応した。

「何?団子だと?温羅はなんで団子の秘術のことを知っているのか?いずれにせよ。吉備の国は滅ぼさなければなるまいな」

「八俣の大蛇を出しますか?」

「いや、今回は四道将軍を派遣でいこう。五十狭芹彦命いさぜりひこのみことを呼べ」


 四道将軍とはヤマト朝廷が日本各地に残る敵対勢力を滅ぼし、征服するために派遣されている将軍の事である。四道将軍が派遣された各地ではヤマト朝廷軍と各地の勢力の間で激戦が行われていた。

 各四道軍には、巨獣と化す巫子が配置されていた。これは幻獣士げんじゅうしと呼ばれていた。幻獣士は四道将軍から与えられた団子を食べると巨獣となる。その巨獣は戦場に投入されるのであった。

 ある日は巨大白猪が軍勢をなぎ倒し、ある日は巨大熊が城の城壁を大破させた。またある日は巨大ガラスが襲い掛かり、敵の司令官を大海原の彼方へと連れ去った。

 巨獣を目の前にして敵軍勢は我先に逃げ回り、助けを求めて身を隠したが、最終的には、すべての敵は蹂躙されていった。

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