第2話 中二病少女、降臨祭
同い年くらいの子らが引っ越してくるから、仲良くやりなよ。祖母はそんなことを言い残して僕たちの前から去っていった。家具だけ残した彼女の部屋を見て、何だか疲れた気がした。
「勝手に引っ越すとか言われても無茶苦茶だよなあ。」
僕は寝癖を治しながら呟く。水を手につけて跳ねてる髪を撫でる、そこをドライヤーでゆっくりと乾かして完成だ。
居間を目前として廊下で、炊けた白米と焼けた魚の匂いがする。今日の朝食は鮭の塩焼きか。
障子を開けるとそこには2人分の朝食が並んでいた。
「おはようございますお兄様。今日は自分で起きれてえらいですね。」
ニコッと微笑んだ妹ハナ。その背後にいつも僕を起こしている彼女の様子がフラッシュバックした、「早く起きてください?おにいさま。」そう言って僕を布団から引き剥がし、踏みつける彼女の姿が。
「おはよう、ハナ。今日はばあちゃんに昨日のこと聞こうと思って早く起きたんだよ。」
だか、祖母はおそらく僕のそんな思惑を先読みしていたのか早々に家を出ていた。急にこの家に見知らぬ何人かを住まわせることを僕らが知らないとこで決め、同意すら取らないことを祖母に直談判したかったのだが…。
「おばあさまなら私が朝食を準備してる時に出て行かれましたよ。」エプロンを脱ぎ畳みながらいうハナは僕よりは落ち着いているように見えた。彼女はリモコンを手に取りテレビをつける、朝のニュースが流れる。
「ハナは嫌じゃないのか?急に知らない人がこの家に来て、一緒に住むことになるんだぞ。」
そうですね、と言いながら朝食をとる彼女はテレビを見ていた。興味がないのか、実感がわかないのか。どちらにしても僕よりはこの状況を作り出した祖母に対して憤りや不満を感じていないようだった。
「それは嫌ですけど、おばあさまが決められたことですし。私から何か言えるわけでも無いと思いまして。」ハナは昔から自分の意見をあまり言わない方だ。そんな彼女だからこそこの家の家事を一手に引き受けて文句も言わずにあるのだろうけれど、僕だったらそんなの耐えられない。
「大丈夫ですよ、お兄様が他の同居人の方々と馴染めるようにサポートしますから。」ハナはそう言って僕を安心させるような笑顔を作る。
妹からも人と仲良くできないと言われているのは兄としていかがなものかと思うが、事実高校に入学してまだ友人ができていないのだから反論の余地もない。
「お弁当作っちゃいますね。」
そう言って調理場へと向かうハナを横目を僕はテレビを見ていた。話題は今話題の少女漫画の話になり、転校生と同居することになった主人公が甘々な日常を送ると言ったものだった。歳の近い男女で同居するのがそんなにいいとは思えないが、それは僕が当事者側になったからかもしれない。僕も漫画やアニメでラブコメだったり恋愛もので美少女との同居する展開を羨ましくも思ったものだ。しかし、リアルで考えてみると学校での生活さえままならない僕が唯一の安息の地、この家で共同生活なんて先が思いやられる。
「イケメンな転校生との同居だなんで、憧れちゃいますね〜」そう言ったアナウンサーは世辞なのか本音なのか。アナウンサーも人気職業だが、競争の激しいテレビ業界では孤独を感じることも多くそう考えてしまうのか。
「ドキドキして気が落ち着かないかも〜」そう言っているのは最近よく見る女性タレントで彼女は確か彼氏がいると報道されていた気がする、この発言を機に炎上してしまえばいいのに。
ハナが僕と彼女の分の弁当を詰め終わったようで、僕らは共に家を出た。特に何か話すでもなく2人ともまっすぐ歩く。朝の登校というのはどうしても憂鬱になってしまう。今日は特に祖母に抗議するために早く起きたのだ、その為のパワーが行き場を失い体内で疼いている。
「あと少しで電車きちゃいますから、急ぎましょう。」スマホに表示された電車の時刻表を見て、ハナは少し小走りで駅へと向かう。僕もその後を追って階段を駆け上がった。その足音が少し乱暴になったのはきっと祖母のせいだ。
高校前の駅に着くと、高校生で溢れていたおそらく同じ高校の生徒達だろう。駐輪場に溢れている自転車たちは他の高校に行く人らのものなのか。それとも倹約家な大人達のものなのか。
スーツ姿の人達も駅に呑まれていくのを見かける。
高校の駐輪場は先ほどのものより10倍は大きいだろう。これは誇張ではなく実際に2階建てであるし、田舎の高校生は大抵自転車通学が多いのでこのくらいの設備が必要となるのだ。
校門をくぐると、様々な生徒達が友達を見つけて挨拶などしてる。
「よ!おはよー。」
「おっすー、てか昨日の水曜日のアップタウンみた?」
「おー!みたみた令和リアリズムがめっちゃおもろくてさー!」
水曜日のアップタウンは若者から大人まで人気なバラエティ番組で、お笑い芸人が出演して様々な説を立証していくという内容だ。昨日の回では今旬のお笑い芸人令和リアリズムが出演してSNSでも話題になっていた。僕もそのことに関してこのように語れはするが、話しかけることは中隣を1人早足で通り過ぎる僕。隣の木からは桜の花がはらはらと散っていた。
鐘の音が授業中の静寂と緊張を溶かす。放課後になり各々部活に向かったり、教室に残って雑談などしている。僕はそそくさと教室を後にして廊下を歩いていると。すれ違った女子生徒達の話がふと耳に入った。
「ねね、ミクのクラスこんな時期に転校生きたんでしょ?」
「そー、5月に転校ってレアだよね!女子でねすっごく可愛かったよ!」
「いいなあ。でもさ、イケメンの男子がよかったよね」その子には悪いけど、と冗談っぽくいうその女子生徒。隣の子は確かにそうだね、と笑いながら話していた。その続きは声が遠くなっていき聞こえなかった。
いつもの道にいつもの駅、いつもの生活にいつもの自分。何も変わらないし、特に帰るつもりもない。孤独やそれによる不安も感じなくはないが今足掻いたってどうしようもない。
「俺にも幼なじみがいれば、きっと。」
変わっただろうか。恋人や友達すらいない僕に寄り添って、少し好意を抱いたらなんかしてくれるそんな子が。
僕は家の門の前に人影を見つけた。門の前に行くのには私有地を踏まなければいけない。私有地だという表示板が見えなかったのだろうか、たまに観光客などがきてしまうので前なら祖母やお手伝い達が追い払ってくれていた。今となってはおそらく僕が追い払う側だから面倒だなと思っていても、足は動くしそれに連れて人影は近くなる。どうやらその人影は頭髪はショートボブくらいの金髪だ、外国人なのだろうか。
いや、そこには魔法少女がいた。
「ここがこれから我が館となるのか。お前はここの住人か?我の眷属にしてやろう!」
ははは、と高笑いをする彼女は魔法少女の格好をしていた。両手を腰に当て上を向いて笑うその姿は芝居がかっていて、一瞬アニメやドラマなのかと思ったくらいだ。明らかに非現実な姿に混乱していたが、なんとか現実に帰ってきてやっと口が開いた。
「な、だれだお前。」
少しどもってしまったがはっきりと言葉を話せた、はずだ。
「誰とは大層なご挨拶だな人間よ。」
会話のできない彼女にやはり混乱していると。
門のくぐり戸からハナが顔を出して僕らに声をかけた。
「あ、お兄様おかえりなさい!それにウミさんもそろそろご飯できるから帰ってきてください」
もうできたのか、いいだろうと言いながら魔法少女が薬医門のくぐり戸を通っている姿は支離滅裂な感じがする。立ち尽くす僕に、来ないのか?、と当然のように声をかける彼女は転校生のウミ。入学式から1か月目に転校生してくるというレアな女子高生、そして何故か魔法少女の姿を模している彼女が僕らの1人目の同居人だったのだ。
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「幼なじみ」が欲しいんです! 双傘 @miyutsuka
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