第6話
そのことに気付き、慌てて目を逸らすと、誤魔化すかのように話しかけてきた。
その内容というのが、なんとも可愛らしいもので、思わず笑ってしまったほどだった。
そんな彼女の反応を見た私は、仕返しとばかりに耳元で囁いてやった。
その結果、見事に撃沈させられたようである。
耳まで真っ赤に染め上げて悶える姿は実に見物であった。
しばらく経って落ち着きを取り戻した後、
起き上がって服を着替えると、朝食の準備に取り掛かった。
といっても、簡単なものしか作れないのだけれど、それでも喜んでくれると嬉しいものだ。
出来上がった料理を並べて席に着くと、二人で手を合わせて食べ始めた。
今日のメニューは、フレンチトーストとサラダ、
それとコンソメスープといった内容になっている。
どれも簡単に作れるものばかりだが、味には自信がある方なので、
自信を持って勧めることができると思っている。
実際、一口食べた瞬間、目を輝かせながら頬張っていた様子を見る限り、
気に入ってもらえたようで安心した。
食後のコーヒーを飲みながら一息ついていると、不意に話しかけられた。
内容は、これからの予定についてである。
そういえば、昨日は一日家に引きこもってしまったせいで、
ろくに外出できていないことを思い出した私は、思い切って提案してみることにした。
それを聞いて、最初は戸惑っていたが、 最終的に了承してくれたようで、ホッと胸を撫で下ろした。
そうと決まれば、善は急げということで、早速出発することにした。
とりあえず、駅前にあるショッピングモールに
行くことにした私達は、目的地に向かって歩き始めた。
その間、たわいない会話を繰り広げていただけだったが、
それだけで十分楽しかったりするのだから不思議である。
そうして、特にトラブルに巻き込まれることもなく無事に
到着することができた私達は、早速店内へと足を踏み入れた。
入ってすぐのところにあった案内板を確認していると、
エスカレーターを発見し、上の階へ行くためのボタンを押してみたところ、
タイミング良く上がってきたため、迷わず進んでいった。
登り切った先で待っていたのは、アパレルショップが数多く並んでいる光景だった。
その中でも一際目を惹くものがあったため、そちらの方に向かって歩き出した。
そして、目の前まで来たところで立ち止まり、振り返って問いかける。
それに対して、彼女は期待に満ちた様子でコクンと首を縦に振ったのを見て、
心の中でガッツポーズをした後で、ゆっくりと扉を開け放った。
中には、様々なジャンルの衣装を着たマネキンがおり、
それぞれの個性溢れるコーディネートを披露していた。
その光景に目を奪われていると、不意に袖口を引っ張られ、
隣を見ると、キラキラと瞳を輝かせている彼女の顔があった。
よほど興味があったらしく、夢中になって見ている様子だった。
このまま放って置くわけにもいかなかったので、
声をかけてみたところ、我に返ったようで恥ずかしそうにしていたものの、
すぐに冷静になったのか、何事もなかったかのように振る舞っていたので、
敢えて触れないことにした。
その後は、二人で楽しくショッピングを満喫していたわけだが、
途中で小腹が空いたということで、フードコートに立ち寄り、
各々好きなものを買ってくることになった。
注文を終えて受け取り口へ向かう途中、
何気なく目を向けてみると、何やら見覚えのある後ろ姿を発見した。
目を凝らすと、それは紛れもなく、同じクラスの友人である佐々木麻希だった。
向こうもこちらに気づいたようで、驚いた表情をしていたが、
すぐに笑顔になり手を振ってきたため、会釈を返すに留めておいた。
わざわざこちらから声をかける必要もないと思い、
そのままスルーしようとしたその時、
後ろから声をかけられたため振り返ると、 そこには彼女が立っていた。
どうやら、もう戻ってきていたらしい。
待たせてしまったことを詫びようとしたが、それを遮るようにして、
手に持っていたクレープを差し出してきたため、有難く頂くことにした。
どうやら、私の好みに合わせて選んでくれたらしく、
チョコバナナ味を選んだところが彼女らしいと思った。
お互いに半分ずつ交換しあい、食べさせあう姿を目の当たりにした店員さんが、
微笑ましいものを見るかのように温かい眼差しを向けてきていたので、
さすがに恥ずかしくなり、そそくさと退散した私達は、最後にゲームセンターに立ち寄り、
プリクラを撮ったり、クレーンゲームを楽しんだりして遊んだ末に帰路に着いたのであった。
帰り際、駅のホームにて電車を待っている間、今日の出来事を思い返し、
充実した休日を過ごすことができたことに満足げな笑みを浮かべつつ、
隣にいる彼女をちらりと盗み見ると、目が合った瞬間、
ニコッと微笑み返されてしまい、咄嗟に目を逸らしてしまったものの、
心臓の音がバクバク鳴っているのがわかるくらい
緊張していることを自覚した私は、顔が赤く染まっていくのを感じながら、
一刻も早くこの場から離れたい一心で電車を待った。
ほどなくしてやって来た列車に乗り込むや否や、座席に座り込むと、
しばらくは互いに無言の状態が続いた。
いつもなら何ともないはずなのに、今はどうにも
落ち着かなく感じる原因は、おそらく今日一日過ごしたことに
よる影響によるものだろうということは容易に想像できた。
その一方で、当の本人は特に気にしていない様子であり、
むしろ普段よりも機嫌が良いように見えるほどであった。
そんな彼女の様子を横目で眺めているうちに、
とある考えが浮かんできて、無意識のうちに呟いていたようだ。
その言葉を拾った彼女が反応するよりも早く、
畳み掛けるようにして話を続けた結果、
勢い余ってとんでもないことを言ってしまったことに気づき、
我に帰ったときには既に手遅れだったようだ。
案の定、言葉の意味を理解した途端、
目を見開いて驚いている姿が視界に入った瞬間、
羞恥心に苛まれた私は、逃げるように俯いたままでいるしかなかった。
その後、目的の駅に到着するまでの間、
一言も言葉を発することなく、
ただただじっと耐えることしかできなかったわけである。
自宅に到着したあとは、夕食を食べて早めに寝る支度を整えたあと、
お風呂に入った後は、早々に休むことになったのだが、
その間、ずっと悶々とした気持ちを抱えたまま悶々と過ごした挙句、
最終的には寝不足のまま朝を迎えることとなった。
当然ながら、目覚めは非常に最悪であり、
一日中怠さが抜けなかったばかりか、
頭がボーっとする状態が続いていたことも合わさって、
授業に集中することができず、散々な目に遭う羽目になったのだ。
昼休みを迎える頃には、既にクタクタになっていたものの、
食欲だけはしっかりとあって、いつものように
カフェテリアの一角に腰を落ち着けると、
注文を済ませた後、運ばれてくるのを待つ間、
ボーっとした頭で、ぼーっと宙を眺めていると、
不意に声をかけられたような気がしたので、
視線を下に向けてみると、そこには見慣れた顔が
あったことに気づいた私は、驚きのあまり、思わず目を丸くしてしまった。
何故なら、そこにいたのは、同じバンドメンバーの明美だったからである。
何故こんなところにいるのか尋ねてみると、
何でも一人で食事をするのが寂しいから、付き合ってくれないかと言う返事が来た。
断る理由もないので、快く承諾すると、丁度注文したものが来たので、二人で一緒に食べることにした。
桜色の甘い囁き〜私と貴女の恋色〜 一ノ瀬 彩音 @takutaku2019
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