第5話

「はいこれ、プレゼントだよ」

と言って手渡された箱の中に入っていたものは、小さな宝石がついたネックレスだった。

驚いて固まっている私を見て、照れ臭そうに頬を赤らめながらもちゃんと説明をしてくれた。

曰く、付き合って半年記念ということで買っておいてくれたらしい。

その気遣いに感謝しつつ、さっそく着けてみようと思ったのだが、

うまくつけることができず苦戦していると、見かねた彼女が手伝ってくれることになった。

後ろから手を回された状態で作業を進めていくうちに、

段々と距離が近くなっていくにつれて胸の鼓動が激しくなっていった。

やがて、首元にひんやりとした金属の感触を覚えた直後、鏡を見せられると、

そこに映っていた自分の姿はとても美しく見えた。

「似合ってるかな?」

そう尋ねると、満面の笑みで頷いてくれたので、思わず見惚れてしまったほどだ。

ありがとうの言葉だけでは足りない気がして、感謝の気持ちを込めて抱きしめると、

それに応えるように抱きしめ返してきた。

しばらく抱き合っているうちに、どちらからともなく唇を重ね合わせた。

最初は軽く触れる程度のものだったが、次第に激しさを増していき、

舌を絡め合わせる濃厚な口づけへと変わっていった。

「んっ……ちゅぱぁ……れろぉ……」

お互いの唾液を交換し合うかのような激しいディープキスを何度も繰り返すうちに、

頭の中が真っ白になっていくような感覚に陥った。

ようやく唇を離す頃には、すっかり息が上がってしまっていた。

「はぁ……はぁ……」

呼吸を整えようとしている間に、再びキスされて舌を入れられ、

口内を舐め回されていくうちに、 再び興奮してきた私は、お返しとばかりに

相手の口に自分の口を押しつけるようにして、さらに深く求めていった。

「んんっ!?」

突然のことに驚きつつも受け入れてくれた彼女は、こちらの背中に腕を回してギュッと抱きしめてきた。

それによって密着度が高まったことで、より深く繋がり合えた気がした。

「ぷはっ! ちょっとストップ!」

息苦しくなってきたのか、背中をバンバン叩いてきたため、仕方なく解放してあげることにした。

お互いに荒い呼吸を繰り返しつつ見つめ合っているうちに、だんだん可笑しくなってきて、笑い出してしまった。

ひとしきり笑った後、落ち着いたところで、再び抱き合ったまま余韻に浸っていた。

しばらくして、ようやく落ち着いてきた頃、唐突に彼女が口を開いた。

「ねぇ、続きしようか?」

その言葉にドキッとして、思わず顔を背けてしまう。

それを見た彼女が、ニヤリと笑みを浮かべると、耳元に顔を近づけてきて囁いた。

「本当はもっとキスしたいでしょ?」

「そ、そんなことないもん!」

恥ずかしさを隠すために強がってみせたものの、

内心バレバレであることを自覚していたため、素直に認めることにした。

「……うん、したいです」

小さな声で呟くように言った瞬間、勢いよく押し倒されてしまった。

そのまま覆い被さってきた彼女に、貪るような勢いでキスされ、

舌を差し込まれると、それに応えるように絡め合わせていき、

互いの唾液を交換し合う濃厚な接吻を繰り返した後、一旦離れて見つめ合う形になった。

再び唇を重ね合わせると、今度は舌を使って口腔内を犯し尽くしていく。

歯茎の裏や上顎など様々な箇所を丹念に舐められ、

その度に甘い吐息を漏らしてしまっていた。

しばらくして満足したのか、ゆっくりと離れていく唇との間に透明な橋がかかるのが見えた。

「ふふっ、可愛い声出してたね、気持ちよかった?」

悪戯っぽく笑う彼女に見つめられ、顔が熱くなるのを感じた。

恥ずかしくて何も言えずに俯いていると、頭を優しく撫でてくれた。

それが心地よくて、つい甘えてしまいそうになる衝動に駆られたが、

ギリギリのところで我慢することに成功した。

それからしばらくの間、無言で見つめ合っていたのだが、

不意に彼女が顔を近づけてきたかと思えば、首筋に吸い付かれ、

チクッとした痛みが走ったため、びっくりして飛び上がりそうになったところを押さえつけられ、

更に強く吸われてしまった。

あまりの痛さに涙目になりながら耐えていると、ようやく解放されたと思ったら、

今度は反対側にも同じことをされた。

やっと終わったと思った矢先、またしても同じことを繰り返すものだから、

さすがに文句を言おうとしたのだが、その言葉を発する前に口を塞がれてしまい、結局最後まで言えなかった。

ようやく解放される頃には、全身汗だくになっており、肩で息をするほど疲れ切っていた。

それを見て満足したのか、ニヤニヤ笑いながら顔を覗き込んでくる彼女に苛立ちを覚えつつも、

これ以上何かを言う気力もなかったため、黙って睨みつけることしかできなかった。

そんな私の様子を見た彼女は、楽しそうに笑っていた。

悔しいけど、やっぱり可愛いと思ってしまう自分がいて、ますます腹が立った。

「ねぇ、今度一緒に服買いに行こうよ、お揃いのやつとか着てみたいかも」

そんなことを考えていたら、急に眠気に襲われ始めたので、

抗うことなく瞼を閉じ、意識を手放していった。

次に目を覚ました時には、辺りはすっかり暗くなっており、

時計を見ると、針は7時半を指していた。

夕飯を食べていなかったことを思い出し、慌ててキッチンへ向かうと、

ラップをかけて置いてある料理を見つけた。

どうやら、私が寝ている間に用意してくれていたらしい。

ありがたくいただくことにした。

食事中、黙々と食べている私をじっと見つめてくる視線を感じて顔を上げると、

そこにはニコニコしながらこちらを見つめる彼女の姿があった。

一体なんだろうと思って首を傾げていると、おもむろに口を開き、

とんでもないことを言い出したのである。

「ねぇ、あーんしてよ」

「えっ!?  なんで私がしなきゃいけないのよ!」

「だって、恋人同士だし普通でしょ?

それとも恥ずかしいのかな?」

そう言って挑発的な態度をとる彼女に対して、

負けじと言い返そうとしたが、 結局言い負かされてしまった上に、

あまつさえお願いを聞いてあげる羽目になってしまった。

仕方なくスプーンを手に取ると、シチューを口に運んであげた。

嬉しそうに食べる姿を見て、不覚にもキュンっとしてしまったことは内緒である。

その後も食事をしながら他愛のない話をしていく中で、話題はお互いの趣味の話へと移っていった。

まず最初に挙がったのは、私の好きな音楽についてだった。

実は、小さい頃からずっと続けているバンド活動を行っており、

月に一度は必ずライブを行っているほど熱中しているものである。

最近では、オリジナル曲の制作にも力を入れており、

近いうちに発表できるかもしれないという段階にまできていたりするくらいだ。

そして、次の話題としては、彼女の趣味について語られた。

彼女もまた、絵を描くことが好きで、よくイラストを

描いているのだという話を聞いた時は、意外だなと思いつつも、どこか納得している自分がいた。

というのも普段から一緒にいることが多いため、

ふとした瞬間に目に入る彼女の描いた絵をよく目にする機会が多かったからである。

そのため、もしかしたらとは思っていたのだが、

実際に聞いてみると思っていた以上に上手いものであったため、正直驚かされた。

それと同時に、新たな一面を知ることができて嬉しくなったりもしたのだ。

そんなこんなで、お互いについての理解を深め合った後、

就寝時間を迎えたため、寝室へと向かうことにした。

ベッドの上で向かい合う形で横になると、どちらかともなく手を握り合い、

身を寄せ合いながら眠りについたのだった。

翌日、目が覚めると、隣に彼女が眠っていた。

しかも、私に腕枕をしながらスヤスヤと寝息を立てているではないか。

その姿を見た瞬間、昨日のことを思い出してしまい、思わず赤面してしまう。

(そっか、昨日あのまま寝ちゃったんだ)

そう思いながら、目の前にある顔をまじまじと見つめていると、

突然パチリと目が開き、視線がぶつかった。

すると、みるみるうちに彼女の顔が真っ赤に染まっていくのがわかった。

どうやら、起きてからもずっと眺めていたらしい。

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