第3話
一体何事かと思って混乱しているうちに唇を奪われてしまったのである。
何が起こったのか理解できずにいた私に対し、彼女は妖艶な笑みを浮かべながらこう言った。
「これでおあいこだね」
その瞬間、全てを悟った。
あの時、仕返しされたのだと気付いた時にはもう遅く、
再び唇を奪われてしまった後だった。
しかも今回は前回とは違い、かなり長い時間に渡って行われたため、
腰が抜けそうになったところを支えられるというおまけ付きだった。
おかげで朝から疲れ切ってしまい、
授業中はほとんど居眠りをして過ごす羽目になったことは言うまでもないことだろう。
そんなことがあった日の昼休み、いつものように昼食を食べようと食堂へ向かっていると、
背後から声をかけられた。
振り返ってみるとそこにいたのは予想通りの人物が立っていた。
何の用があるのか尋ねてみると、彼女は微笑みながらこう答えた。
曰く、最近元気がないように見えたから心配になったのだという。
確かにここ最近、あまり調子が良くなかったのだが、
そのことを悟られないよう振舞っていたつもりだっただけに内心驚いていた。
とはいえ、わざわざ心配してきてくれた相手に嘘をつくわけにもいかないと思ったので正直に打ち明けることとした。
それを聞いた彼女は納得がいったような表情を見せた後、何か思いついたらしく、とんでもない提案を持ちかけてきたのである。
「それじゃあ、気分転換も兼ねて今からデートに行こうよ」
そう言われて思わず固まってしまった私に構わず、手を引いて歩き出すものだから、
半ば引きずられる形で校舎裏にある人気のない場所に連れていかれることになった。
そこで何をするつもりなのかと考えている間に、
気が付けば壁際に追いやられていて逃げ場を失っていたことに気づいた時にはすでに手遅れだったようだ。
次の瞬間には両手を掴まれ身動きが取れなくなっていた上に、
足の間に膝を入れられているため蹴り上げることもできない状況に陥っていたのだ。
まさに絶体絶命といった状況の中、せめてもの抵抗として睨みつけてみるものの効果はなく、
寧ろ逆効果にしかならなかったようだ。
むしろ余計に喜ばせるだけの結果となってしまったようである。
その証拠に、目の前の彼女は嬉しそうな表情を浮かべており、
今にも襲いかかってきそうな勢いだったからだ。
「ねえ、キスしてもいい?」
唐突にそんなことを言われ、一瞬何を言っているのか理解できなかったが、
すぐに理解して慌てふためく羽目になってしまった。
「ちょ、ちょっと待って!?
なんでそうなるの!?」
パニック状態の頭で必死に考えを巡らせてみたものの全く良い案が浮かぶことはなく、
その間にどんどん距離を詰められてきてしまい、
もはや逃げることすらできない状況にまで追い込まれてしまう始末だ。
もうダメだと思い目を瞑ったその時、唇に柔らかいものが触れた感触があり、
恐る恐る目を開けてみると至近距離に彼女の顔があってびっくりしたが、
それよりも恥ずかしさの方が勝ってしまい、反射的に顔を背けようとしたものの、
後頭部を押さえつけられてしまっていて動かすことができない状態だった。
それどころか逆に引き寄せられてしまい、
より密着度が増してしまったことで心臓の音がうるさいくらいに高鳴っていくのが分かった。
このままではいけないと思って引き剥がそうとするもののビクともせず、
それどころかより一層強く抱きしめられてしまい身動きが取れなくなってしまったばかりか、
あろうことか口の中に何かが侵入してきて蹂躙され始めた。
あまりのことに思考が追いつかなかったが、
しばらくしてそれが舌だと理解した途端、一気に顔が熱くなった気がした。
どうにか逃れようと試みたものの無駄に終わり、
それどころか余計に興奮させてしまったのか、
更に激しく責められてしまい、とうとう限界を迎えてしまったようで
力が抜け落ちてしまったところでようやく解放されたものの、
まともに立っていられないほどの状態に陥ってしまったため、
その場に座り込んでしまうこととなった。
そんな様子を見兼ねたのか、手を差し伸べられ、
それを掴むことでなんとか立ち上がることができたのだが、
まだ足元がふらついている状態だったため、
彼女に支えてもらう形となり、 まるでお姫様抱っこのような格好に
なってしまったことに対して羞恥心を覚える暇すら与えられないほど余裕がなかった。
そんな中、耳元で囁かれた言葉を耳にした瞬間、
全身が熱くなり、鼓動が激しくなり、呼吸が荒くなっていくのを感じた。
そして、完全に動けなくなる前に、急いでその場を離れ、
近くの空き教室に駆け込んだことで難を逃れることができたのであった。
その後、しばらくの間、まともに顔を合わせることができず、
悶々とした日々を過ごすことになったのであった。
あの日以来、彼女と会うことを避けていた私は、 久しぶりに彼女と会った際に、
つい素っ気ない態度を取ってしまったのだ。
そうすると、彼女の方から話しかけてきた。
「最近、私のこと避けてない?」
その問いかけに、図星を突かれた私は何も言い返せずに黙り込んでしまう。
すると、追い打ちをかけるように続けて問いかけてきた。
「どうして避けるの?
私のこと嫌いになっちゃった?」
悲しげに目を伏せる姿を見て、罪悪感に苛まれた私は、ついに耐えきれなくなって、
正直に理由を話すことにした。
実は、あの出来事のせいで、あなたのことを意識しすぎてしまい、
まともに接することができなかったということを打ち明けたところ、予想外の反応が返ってきた。
なんと、彼女も私と同じ気持ちを抱いていたというのだ。
つまり、両想いということになる。
その事実を知った瞬間、嬉しさのあまり泣いてしまった私を彼女は優しく抱きしめてくれた。
「ごめんね、泣かせるつもりじゃなかったんだけど、嬉しくてつい……」
申し訳なさそうに謝る彼女に対して、首を横に振ってみせる。
そして、涙を指で拭いながら笑顔を見せると、彼女も微笑み返してくれた。
こうして、晴れて恋人同士となった私たちだが、 以前にも増してスキンシップが激しくなった気がする。
というのも、二人きりになると必ずと言っていいほどキスをしてくるからだ。
「ねえ、もっとしようよ」
そう言って迫ってくる彼女を押し退けるのに苦労している毎日を送っている今日この頃である。
正直言って勘弁してほしいと思っている反面、嬉しく思っている自分もいるわけで、
結局のところ、受け入れてしまっている自分がいるのだからどうしようもない話なのだけど、
たまには主導権を握らせて欲しいという気持ちもあるわけで、
どうしたものかと考え込んでいるところに、更なる試練が訪れたのだった。
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