第2話

「もう一回しようよ」

囁くような声で彼女が言った。

その言葉を聞いただけで身体が熱くなるのを感じた。

もう一度キスをするために顔を近づけていく。

互いの息がかかるほど距離が縮まったところで止まると、今度はどちらからともなく唇を重ね合わせた。

先程よりも強く押しつけるようにキスをしてみる。

そうするとそれに応えるようにして彼女の方からも求めてきた。

舌を絡ませ合いながら唾液を交換し合うような濃厚な口付けを交わす。

息継ぎのために一度口を離すと銀色の橋がかかったのが見えた。

「もっと欲しい」

潤んだ瞳で見つめられながらそう言われると断れるはずもなく、もう一度唇を重ね合わせる。

今度は先程よりもずっと激しく貪るような激しいものだった。

舌と舌が絡み合い、口の端からは混ざり合った二人の唾液が流れ落ちる。

呼吸すら忘れるほどに夢中になっているうちに頭がボーッとしてきた頃にようやく解放された。

酸欠気味で意識が朦朧としている中、彼女が耳元で囁いた。

「私の家へ行こうよ」

「う、うん」

私は頷くことしかできなかった。

ただ手を引かれるままについていくしかなかったのだ。

道中の記憶はほとんどないと言っていいほど朧げになっているためほとんど覚えていないのだが、

一つだけはっきりと覚えていることがあるとすれば、それはベッドの上での出来事だったということだ。

結局、その日は一晩中愛し合っていたような気がする。

翌朝目が覚めると隣には素肌のまま眠る彼女の姿があった。

その姿を見た瞬間、昨夜のことを思い出して顔が熱くなったような気がしたが、

それと同時に愛おしさが込み上げてきて再び欲情してしまいそうになる衝動に駆られたが何とか堪えることに成功した。

その後は二人でシャワーを浴びてから着替えを済ませると帰路についたのだった。

家に帰るまでの間、ずっと手を繋いで歩いていたせいか周囲からの視線が気になったものの特に気にすることもなく歩き続けた。

「今日は楽しかったね」

そう言って微笑む彼女の顔を見て、私は改めて思ったのだった。

(やっぱり好きだなぁ)

と思いながら、彼女の手を強く握り返したのだった。

それからというもの、私たちは毎日のように会うようになった。

学園でも、放課後でも、休みの日でも関係なく会っていたと言っても過言ではないだろう。

それくらい親密になっていたのだ。

一緒にいる時間が増えるにつれて、ますます彼女のことを好きになっていった。

自分でも驚くほどに夢中になっている自分がいることに驚いたくらいだ。

それほどまでに彼女の魅力に惹かれていたのだと思う。

しかし、それと同時に不安もあった。

こんなに仲良くなってしまって本当に大丈夫なのかという心配である。

もし別れたりしたらと考えると怖くて仕方がなかったのだ。

そんなある日のこと、いつものように学園からの帰り道を歩いている時だった。

不意に手を握られたので驚いて振り返るとそこには彼女が立っていた。

突然のことに戸惑いながらも平静を装って尋ねたところ、恥ずかしそうに俯いてしまった。

よく見ると耳まで真っ赤になっているのがわかった。

一体何を言い出すつもりなんだろうと思っていると意を決したように顔を上げた彼女と目が合う。

「ねぇ、キスさせて」

思いがけない言葉に驚きつつも断る理由などあるはずもなかった。

むしろこちらからお願いしたいくらいだったのだ。

だから即答した。

「うん、いいよ」

と答えると同時に、唇に柔らかい感触を感じた。

軽く触れるだけの優しい口づけだったが、それだけで十分すぎるくらい幸せを感じていた。

唇が離れると同時に見つめ合う形になり、お互い照れ笑いを浮かべた後にもう一度キスをした。

今度は先ほどよりも少しだけ長く、そして深いものだった。

舌を絡め合わせ唾液を交換するような濃厚な口付けを交わした後、名残惜しげに顔を離すと二人の間に銀色の糸が伸びていた。

それを拭うことも忘れたまま見つめ合っていると不意に彼女が呟いた。

「大好きだよ」

その言葉にドキッとすると同時に胸の奥底から熱いものが込み上げてくるような感覚を覚えた。

嬉しさのあまり泣きそうになるのを堪えつつ、精一杯の気持ちを込めて答える。

「私も大好きだよ」

そう返すと彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。

その笑顔を見た瞬間、心の底から愛しさが込み上げてきて止まらなくなった。

気が付いた時には彼女を抱きしめていたのだ。

彼女もそれに応えるように背中に腕を回してくれたことが嬉しかった。

しばらくの間、そうやって抱き合っていたが、

さすがに人目もあるということで仕方なく離れたものの、それでも繋いだ手を離すことはなかった。

それからというもの、私たちは毎日のように会ってはその場所で二人だけの秘密を増やしていった。

例えば、誰もいない教室でこっそりキスをしたり、誰も来ない屋上の隅っこで抱き合ったりもした。

その度に気持ちが昂ぶっていき、抑えきれなくなってしまうこともあったが、

なんとか理性を保つことで事なきを得ていた。

そんなある日、いつものようにデートをしていた時のこと、

ふと会話が途切れたタイミングで彼女が立ち止まったかと思うと急に抱きついてきた。

突然のことに驚いていると、彼女は耳元で囁いた。

「このまま抱きしめていたいの」

「わかった」

私が頷くと、安心したかのように体重を預けてきた。

そのまましばらく抱きしめ合った後、ゆっくりと体を離した。

その顔はどこか寂しげだったが、すぐに笑顔に戻ったのを見てホッとした。

それからしばらくの間、他愛もない会話を楽しんだ後、解散することになった。

別れ際、名残惜しかったが仕方がないことだと割り切り、

また明日会おうと約束を交わして帰路についた。

家に帰ってからもずっと彼女のことを考えていたせいか中々眠れなかった。

翌日になっても気分が晴れないまま学園へ行く準備をしているとインターホンが鳴った。

こんな朝早くに誰だろうと不思議に思いつつ玄関を開けるとそこに立っていたのは彼女だった。

どうしてここにいるのかと尋ねると、どうしても会いたくなってしまったから来たのだという答えが返ってきた。

それを聞いて嬉しくなった私は彼女を部屋に招き入れた。

部屋に入ると真っ先にベッドへ向かった彼女は腰掛けると両手を広げてみせた。

それを見た瞬間に昨日の光景を思い出し、一気に体が熱くなってしまった。

ドキドキしながら近づいていくと優しく抱きしめられた。

彼女の温もりを感じつつ、しばらくの間じっとしていると、ふいに名前を呼ばれた。

顔を上げると目の前に彼女の顔があった。

吸い込まれそうな瞳に見つめられていると段々と距離が縮んでいき、気がつくとキスをしていた。

最初は触れ合うだけの軽いものだったが、回数を重ねるごとに激しさを増していき、

最終的にはお互いに貪るような激しいディープキスへと変わっていった。

口内を犯し尽くすかのような激しい動きに翻弄されながらも必死に応えようとする姿は健気であった。

ようやく解放される頃にはすっかり息が上がってしまっていた。

呼吸を整えている間もずっと頭を撫でられ続けていたため少しくすぐったかったが、

それ以上に心地よかったためされるがままにしていた。

どれくらい経っただろうか、やっと落ち着いたところで顔を上げると、

蕩けたような表情で見つめてくる彼女と目があった。

「そろそろ行かないと遅刻するね、それとも休んで二人で過ごす?」

「うーん、どうしようかな」

悩んでいるフリをしながら頭の中では既に決まっていた。

答えは一つしかない。

だってこんなにも好きなのだから仕方ないよね?

そう思いながら、私はもう一度キスをした。


「じゃあ、今日はサボっちゃおうか」

そう言いながら悪戯っぽく笑う彼女を押し倒し、

馬乗りになって見下ろす体勢になる。

これから起こるであろう展開を想像しているのか、

頬を赤らめながらも期待に満ちた眼差しを向けてくる姿に興奮を覚えつつ、ゆっくりと顔を近づけていく。

そして、そのまま唇を重ね合わせた。

最初は軽く触れる程度のものだったが、次第にエスカレートしていき、

最後にはお互いの唾液を交換し合うような濃厚なものになっていった。

舌先を使って歯茎を舐めたり、上顎を刺激したりと様々な方法で攻め立てるたびに

ビクッと体を震わせるものの反応を楽しむようにしてさらに深く絡め合わせていった結果、

完全にスイッチが入ったようで自分から積極的に求めてくるようになっていた。

時折漏れる吐息混じりの声を聞きながら夢中で貪っているうちに、

いつの間にか主導権を奪われてしまっていたようだ。

そのことに気付き慌てて離れようとしたが遅かったようだ。

「逃さないよ」

そう言うや否や押し倒されてしまったのだ。

「このままキスしてあげるね」

「いや、ちょっと待って、今したら絶対ヤバいからっ!」

必死の抵抗を試みるものの、無駄に終わった挙句、

容赦なく唇を奪われてしまったせいで抵抗する気力を失ってしまった。

結局、そのままされるがままになってしまった。

たっぷりと時間をかけて堪能された後、

ようやく解放されることになった時にはすっかり骨抜きにされていた。

ぐったりとしている私を見下ろしながら満足そうに微笑んでいる姿が

とても綺麗だったので見惚れてしまっていると、

不意に耳元に顔を寄せられたかと思うと囁かれた一言によって、

身体中を駆け巡る甘い痺れにも似た感覚に襲われた。

そして、耳元で告げられた言葉は、あまりにも衝撃的であり、

思考回路が停止してしまったかのように何も考えられなくなった状態で呆然としていた。

そんな彼女の姿を前に私は、ただただ、なす術もなく、立ち尽くすことしか出来なかった。

「これからもよろしくね」

それだけ言い残し、去って行く後ろ姿を見つめながら、 私はその場に立ち尽くしていた。

そして、心の中で叫んだ。

(ずるいよ……)

その声は、誰にも届くことなく消えていったのだった。

あれから数日が経過したある日のことだった。

いつも通り登校していると、後ろから声をかけられ振り向くと、

そこには彼女が立っていた。

どうやら偶然通りかかっただけのようだ。

せっかくなので一緒に学校に行くことになったのだが、

その間は特に会話もなく気まずい雰囲気が続いていた。

校門を通り抜けたところで、突然腕を引っ張られたと思ったら、

人気のない場所に連れ込まれてしまった。

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