「悪いな、秘密だ」2
ヒース大陸の東側、【
「しかし、平和ではあるな。村もそこまで
指定された山の中へどんどん足を進めながら、リィゼンは言う。俺は退屈という毒に殺されそうだったけどな、とミツナギが文句をたらした。
「
「ま、必要ならな」
「そう言って前回は何もしなかったが」
「俺が考えるより前に、お前が全部やっちまったんだろうが」
「君は案外、決断が遅い」
「お前は猪突猛進すぎるんだよ」
やがて、目的の場所に着いた。ここで戦ってくださいと言わんばかりの、ひらけた空間。草や土は乱暴に踏みならされており、周囲の木々は無理やりへし折られている。
「ふぅ……」
リィゼンは一つ息を吐いて、ここまでの疲労を回復する。そして桜の弓を構え、いつでも矢を放てる体勢を作る。ミツナギは、気の抜けた様子で待つ。
「……」
「……」
ざわざわと、凪いでいた風が葉を鳴らす。早くここから逃げなさいと、天が優しく息を吹いて知らせているかのようだった。だが、その程度の忠告では、二人は動かない。
流れる風の中で、邪気と寒気の針が二人の頭をぴんと刺した。探しに行く手間が
「お出ましのようだ」
リィゼンがそう呟いた瞬間、前方から四つ足の小型の
凶悪な獣たちは獲物を前に、牙を濡らして舌を出す。濃い紫色の毛は逆立ち、赤い両目が怪しく光る。
「ほう。群れとは言っていたが、思ってたよりも数が多いな」
「撤退するか? 村まで逃げようぜ」
「いいや。数が多いだけだ」
ミツナギの
跳んで襲う
短い悲鳴をあげる
「おい小僧、遊んでんのかぁ? 炎じゃないと殺せねえだろうが」
「わかっている、これは特訓だ。しばらく実践を離れていたからな」
戦いの中で淡々と答えたリィゼンは、矢の羽根を少しだけ噛みちぎる。そうして飛んだ矢は意志を持ったかのように
「うん、満足だ。さて殺すか」
自身の腕前が衰えていないことを確認し、リィゼンは弓を離した。
右手を、横にまっすぐと伸ばす。すると腕から黄金の炎がゆらりと生まれ、右手に巻きつく。それはすぐに形を成し、炎の刃となった。
リィゼンは駆けた。先程とは違い、踊るような斬撃を繰り出す。
これこそが
「待て、小僧」
突然、ここまで傍観してきたミツナギが前へ出た。それに気づいたリィゼンが呼び声に応じようとした瞬間、隙ありと牙を光らせた
「残りは俺に譲れ。お前は引っ込んでろ」
「……? どうしてだ? 私は何も困ってはいないが」
「馬鹿野郎、そうじゃねえよ」
ふよふよとのんきに進むミツナギを、リィゼンはゆっくり目で追う。
「あの村をクソつまんねえとは言ったけどよ。このまま出ていくのもなんだし、せめて酒と飯くらいは楽しもうと思ってな」
「……なるほど」
ミツナギはぬいぐるみで、一応三日月のような口はあるが、その上をツギハギに縫われている。物を食べることも飲むことも、〝今は〟できない。
「だからお前らはおとなしく、俺の
そう豪語する、新たに登場した小さな存在を前に、
「来ねえのかよ害獣ども。だったら俺が、遠慮なく喰らうぜ」
死ね。そう呟いてからのミツナギは、あっという間だった。
伸縮可能な尻尾を器用に動かし、ミツナギは飛び回る。刃で突き、時には鞭のように殴る。炎でしか殺せないはずの
その様子を、今度はリィゼンが傍観していた。必要ならば援護をするつもりだが、必要なさそうなのでただ見守る。まるで鬼ごっこをする子どもを追いかけるように、ミツナギはゲラゲラと笑いながら、眼下の獣を狩り尽くしていった。
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