第14話
「美風くん、おはよ」
「天堂くんおはよう」
同級生に先輩後輩、男女問わずに美風とすれ違うと必ず挨拶がかかる。本人は気づいていないが、みな美風と挨拶が出来て至福の声を上げていた。
〝今日も綺麗だ〟や〝昨日より可愛い〟など、それは心の声も含まれている。
美風が通った道は清らかな空気が流れ、朝から会えるとラッキーデイとまで言われている。まるで神格化だ。
「おっす、美風」
肩を叩かれ美風は右隣を少し見上げる。爽やかなイケメンが爽やかな笑顔を見せている。
「おはよ、
美風も少し笑みを返す。それを翔馬は横目にして、突然肩を震わせて笑う。
「何笑ってんだよ」
「いや、向こうの陰で女の子二人が歓喜の悲鳴をあげてるなぁと」
「……そうですか」
「美風は確かに神がかった美しさだけど、中身はめちゃくちゃ男の子だもんな。みんな中身は見ないフリだから面白くて」
「男の子じゃなくて、男な。それに全然面白くない」
美風は眉根を寄せてきっぱりと訂正する。
外見が人よりいい事は自身でも分かっているが、翔馬の言う通りに殆どが顔しか見ていない。美風が何を言っても都合のいいように変換され、天堂 美風という一人の人間を見てくれる者は少ない。その中で美風の隣に並ぶこのイケメン長野 翔馬は、中学の時からの親友で唯一信頼出来る男だ。少し心配性で、過保護な面が玉に瑕だけど。
「そうだ、この間さ、小学生ん時の同級生と街中でバッタリ会ってさ、凄い変わり様にびっくりしたんだよ。当時は結構ぽっちゃり系だったんだけど、めちゃくちゃスリムになっててイケメンになってたわ」
「へぇ、そんなに変わっててよく分かったな」
美風は感心して言う。
「あぁ、向こうから声かけられたからだよ。じゃなかったら素通りしてた」
「そっか。でも小学生の頃か……」
小学生時代の記憶を引っ張り出す。しかし当時のことを思い出そうとすると、何故か美風はいつも何か違和感に似た不思議な感覚になる。
幼少期から小学生時代までの色んな記憶が確かにある。たくさんの友人に囲まれて遊んだことや、祖父と暮らしていたことなど。楽しかったことや、悲しかったこと、それらも覚えている。それなのに何故か実感を伴わない。まるで他人のアルバムを見せられたかのような、自分の事なのに当時を振り返っても高揚感が湧かないのだ。
「そう言えば美風は中学上がる時にこっちに引っ越して来たから、同じ小学校出身の奴ってここらには誰もいないんだったな」
「うん……そう」
この辺りは実はよく分からない。何故引っ越すことになったのかが、思い出せなかった。
でもそれは美風にとっては重要なことではない。思い出さなくても何の支障もないからだ。
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