第13話
「熱くないのか?」
「あぁ。俺は熱くないが、対象の物を跡形なく燃やせる」
「そ、そうなんだ……」
(これで魔力がほぼ無いってウソだろ! オレ騙されてる?)
「心配するな。人間に危害を加える真似はしない。ミカとの約束を破ってここから追い出されるのは困るからな」
「うん……そうしてくれると助かる」
とても律儀だ。律儀だが、気を許しすぎてはいけないのだと美風は肝に銘じた。
朝食は簡単にパンと目玉焼きを焼いてローテーブルに二人分乗せる。アリソンが少し驚いたようにパンに目玉焼きが乗った皿と、美風の顔を交互に見ている。
「どうかした? 質素だとか文句はなしだよ」
「違う。俺の分も用意してくれたのかと思ってな」
「そりゃあ用意するよ。ていうか、もしかして人間界のご飯は合わないか?」
そうなると今後の生活は困ったことになると、美風は頭を悩ませたが。
「それは問題ないだろ。食べるのは初めてだが」
アリソンはパンを一口齧ると、咀嚼してから小さく頷いた。
「シンプルだが、悪くない味だ」
「……そうか。なら良かったよ」
きっと魔界では素晴らしい程の豪華な食事が出るのだろう。でもシンプルとは口にしたけど、文句を言うことなく朝食を平らげてくれるとやっぱり嬉しいものがあった。
「オレ大学に行かなきゃなんないし、夕方までアリソン一人だから。テレビとか勝手に見てていいよ。あ、部屋を漁ったりはしないでくれよ。あと昼飯はカップラーメンで我慢してほしい」
お湯の沸かした方、カップラーメンの作り方をざっと説明すると、アリソンは素直に「分かった」と頷いた。
「じゃあ行ってくるね」
美風は玄関のドアを開けてアリソンに振り返る。
「え、ちょ……なに?」
アリソンの顔がやたらと近いことに驚き、美風は咄嗟に厚い胸板を押した。それにも関わらずアリソンの手が美風の後頭部へと回る。
またキスをされるのではと美風は身を固くした。
「後ろの毛が少し跳ねてる」
「あ……そ、そうだったのか……。ありがとう」
脳内にまで響く美声を耳元で囁く必要があるのか。ゾクリと背筋に痺れが走るという初めての感覚に戸惑いながら、美風は苦笑いを浮かべる。礼を言うと、さっさとドアを閉めた。
「悪魔って、こえ……」
ボソリと呟いて美風は大学へと向かった。
本当は部屋に悪魔を一人置いていくことに不安がないと言ったら嘘になるが、連れて行くことなど出来ない。あれは目立ちすぎる。だから悪魔を信じるなどどうかしているとしか思えないが、大人しくしてくれている事をただ願うしかなかった。
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