第6話 新たな決意

エナの死から一週間が経った。村全体が深い悲しみに包まれている。彼女の明るさ、無邪気さ、そして誰よりも人々を気遣う心が、どれほど村にとって大切なものだったかを誰もが痛感していた。


デバッグは、エナの墓の前で膝をついていた。その手には、彼女がいつも大事にしていた小さな花の飾りが握られている。


「エナ……ごめんな……」


声はかすれ、風に消えた。




村人たちは少しずつ日常に戻ろうとしていたが、その中には重たい空気が流れていた。エナの死による心の傷は、簡単に癒えるものではなかった。


ロアは畑で黙々と作業をしていた。鍬を振り下ろすたびに、彼の顔には苦悩が浮かんでいる。


「エナ……お前がいないと、俺たちの家はどうなるんだ……」


彼の呟きは誰にも聞こえない。


リクは村の子どもたちと遊んでいたが、彼の笑顔にはどこか無理があった。


「エナ姉ちゃんみたいに強くなるんだ……」


そう言いながら、小さな木の剣を振り回していた。




デバッグは、自分を責め続けていた。


「俺がもっと完璧な防衛計画を立てていれば、エナは……」


彼は地図を広げながら、深く考え込んでいた。その表情を見て、ガルズが声をかける。


「デバッグ、そんなに自分を追い詰めるな。」


デバッグは顔を上げずに答えた。


「俺の計画が未熟だった。だからエナが死んだ。」


ガルズは苦笑しながら言った。


「完璧な計画なんて、この世にはないさ。お前がどれだけ優れた参謀でもな。」


その言葉に、デバッグは少しだけ目を細めた。


「それでも、次は絶対に同じ失敗を繰り返さない。」


その言葉には、決意が宿っていた。




村の復興作業が本格化する中で、デバッグは次の防衛計画を練り始めていた。


「防衛だけでは限界がある。俺たちが主導権を握らなければ、未来はない。」


彼の言葉にロアは驚いた表情を浮かべた。


「攻めるってことか?」


「ああ。俺たちから動く。敵に怯える生活はもう終わりだ。」


ロアは一瞬黙ったが、やがて頷いた。


「だったら、俺も手伝う。」




デバッグは村の若者たちを再び集め、訓練を始めた。


「今回の戦いで分かったことは、防衛だけでは村を守れないということだ。だから、これからは攻める訓練をする。」


彼の言葉に、若者たちは緊張した表情を見せた。


「戦いは力だけじゃない。連携がすべてだ。」


デバッグは木の板に陣形図を描き、攻めの戦術を説明した。


ガルズもその訓練に加わり、実戦形式の模擬戦を指導した。


「お前たち、もっと力強く槍を構えろ! 敵を恐れるな!」


その声に応えるように、若者たちは汗を流しながら練習を続けた。




リクもまた、エナの死を乗り越えようとしていた。


「お兄ちゃん、僕もエナみたいになりたい。」


その言葉にデバッグは驚いたように振り向いた。


「リク……」


「僕、エナ姉ちゃんが言ってたことを覚えてる。みんなの役に立ちたいって。それを僕もやりたい。」


デバッグは弟の頭を撫でながら言った。


「お前はまだ小さい。でも、その気持ちは大切だ。一緒にやっていこう。」


リクは力強く頷き、その目には小さな決意が宿っていた。




数日後、デバッグは村人たちを集めて、新たな計画を発表した。


「この村を守るだけじゃなく、外の脅威を排除するために動き始める。」


その言葉に村人たちは驚きながらも、静かに耳を傾けた。


「次の襲撃が来る前に、敵の根を断つ。それが俺たちの生き残る道だ。」


その言葉にロアが立ち上がった。


「俺も協力する。エナを守れなかった分、俺は戦う。」


ガルズも笑みを浮かべながら言った。


「お前が動くなら、俺も付き合うさ。」


こうして、村全体が新たな戦いに向けて動き始めた。




夜、デバッグは一人でエナの墓の前に立っていた。


「お前の死を無駄にはしない。俺たちは進む。」


夜空に輝く星が、彼の決意を見守るように瞬いていた。




(第6話 完)





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る