第3話 村の未来を切り開け

井戸の完成により、村の生活は少しずつ改善し始めた。しかし、水が確保できても、村が抱える最大の問題の一つである「食料不足」は依然として解決していなかった。


デバッグは井戸の周辺を歩きながら、自分の考えをまとめていた。


「水があるだけじゃダメだ。この水をどう使うかが重要だ。」


彼は畑を観察しながら地面を掘り、土の状態を確認した。乾燥しているものの、水さえ十分に供給できれば作物を育てる余地があると判断した。


「次は農業だ。この村に作物を根付かせれば、全てが変わる。」




その夜、家族全員が集まる食卓で、デバッグは次の計画を話し始めた。


「兄さん、エナ、リク、今度は畑を作ろうと思うんだ。」


「畑? 俺たち、そんなことやったことないぞ。」ロアが眉をひそめる。


「それでもやる価値はある。水はあるし、土も工夫すれば作物を育てられる。僕たちが最初に成功すれば、村の人たちも協力してくれるはずだ。」


「でも……どんな作物を育てるの?」エナが尋ねる。


「まずは育ちやすくて、栄養価の高いものだな。豆類や芋がいい。」


「豆か……なんか地味だな。」ロアが苦笑いする。


「地味だけど、食べるだけじゃなく土壌を良くする効果もあるんだよ。」


デバッグの説明に、リクが目を輝かせながら叫んだ。


「僕、豆いっぱい食べたい!」


その無邪気な言葉に、一同が思わず笑顔になった。





翌日から、デバッグたちは村の一角を畑にするための作業を始めた。井戸の近くに適した土地を見つけ、雑草を取り除き、土を掘り返していく。


「ロア兄さん、その辺の土をもう少し柔らかくしてくれ。」


「お前、本当にこれがうまくいくと思ってるのか?」


「思ってるさ。兄さんが力を貸してくれる限りね。」


ロアは苦笑いしながらも、力強くシャベルを動かした。一方で、エナとリクも小さな手で土を運んだり、種を並べる作業を手伝った。


作業を見ていた村人の一人が近づいてきた。


「おい、デバッグ。また何かやってるのか?」


「ああ。今回は畑作りだ。」


「畑だと? この土地で何が育つって言うんだ?」


その言葉には嘲笑が含まれていたが、デバッグは微笑みながら答えた。


「わからない。でも、何もしなければ何も得られないだろう?」


その冷静な言葉に村人は言葉を失い、やがて「まあ、見ててやるさ」とだけ言ってその場を去った。




畑作りが順調に進む中、デバッグたちはある問題に直面した。それは、土地の養分が乏しいため、種を撒いても発芽が思うように進まないことだった。


「やっぱりこの土じゃダメか……」


デバッグは掘り返した土を手に取りながら考え込んだ。


「何か……土を肥やす方法が必要だ。」


その時、彼は前世の記憶を思い出した。陸軍で学んだ施設設営の知識の中には、堆肥や自然肥料の作り方も含まれていた。


「家畜の糞や枯れ葉、腐った果実……これらを集めて発酵させればいいんだ。」


彼はすぐに家族を呼び寄せ、そのアイデアを伝えた。


「ちょっと臭い作業になるけど、これがうまくいけば作物が育つ。」


「臭いのは嫌だなぁ……」エナが顔をしかめる。


「でも、これで食べ物が増えるなら我慢しよう!」リクが笑顔で答えた。


その言葉にエナも頷き、家族全員で肥料作りを始めた。




数週間後、デバッグたちが手作りした肥料を使った土壌で、最初の芽が出た。小さな緑の葉が地面から顔を出したのを見て、エナが歓声を上げた。


「見て! 芽が出たよ!」


リクも「すごい! 僕たちやったんだね!」と笑顔を見せた。


ロアはその様子を見て、小さく笑いながら言った。


「お前、本当にやり遂げたな。」


「これが始まりさ。まだまだやることは山積みだ。」


デバッグは芽を見つめながら静かに言った。




畑の成果を見た村人たちは、デバッグの行動に興味を持ち始めた。


「本当にあの土地で作物が育ったのか?」


「どうやって土を変えたんだ?」


次々と質問が飛び交い、デバッグは笑顔で答えた。


「この方法を使えば、他の土地でも作物を育てられるかもしれない。」


その言葉に村人たちは目を輝かせた。


「俺たちも手伝うよ!」


「もっと大きな畑を作ろう!」


こうして、村全体が協力して畑作りに取り組むようになった。




その夜、デバッグは空を見上げながら一人呟いた。


「村が変わり始めた。次はもっと大きな目標に向かって進む番だ。」


彼の視線の先には、アバリス大陸の果てしない荒地が広がっていた。その地を変える旅は、まだ始まったばかりだ。




(第3話 完)


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