第2話 家族の絆と新たな一歩
デバッグが井戸掘りを始めてから数週間が経った。村の小さな水源は人々に希望を与え、少しずつ信頼を得つつある。しかし、それは村全体の状況を劇的に改善するものではなかった。
この村に住むほとんどの家族は、日々の食事を確保するのが精一杯だ。栄養不足のために体力がなく、働き手が減るとその負担がさらに増える悪循環が続いている。
デバッグの家族も例外ではなかった。父は病で他界し、母は体調が優れないながらも必死に家事をこなしていた。そのため、実質的に家族を支えているのは長男であるロアだった。
「デバッグ、どこに行くんだ?」
畑仕事を終えたロアが声をかける。17歳の彼は家族の柱として、体力仕事に明け暮れている。
「井戸をもっと掘る。まだ水量が足りないから。」
「お前、よくそんなに動けるな。俺なんかもうヘトヘトだ。」
ロアは苦笑いしながら頭を掻いた。彼は弟の行動力をどこか羨ましく思っていたが、それを口にはしなかった。
「それでも、こうして村を変えようとしてるお前は……すごいと思うよ。」
「兄さんだってすごいさ。家族を支える力があるんだから。」
その言葉にロアは一瞬戸惑ったが、デバッグの真剣な目を見て小さく頷いた。
その夜、家に戻ると、妹のエナと弟のリクがデバッグの帰りを待っていた。
「お兄ちゃん! これ見て!」
エナは手に持っていた石を掲げた。それは彼女が村の外れで見つけた不思議な形の石だった。
「この石、綺麗でしょ?」
「綺麗だな。けど、今度からはあまり遠くに行っちゃダメだぞ。」
デバッグが注意すると、エナは少し頬を膨らませた。
「だって、何か探したくなるんだもん。」
リクはそんな姉を真似して、「ぼくも探す!」と無邪気に笑った。
デバッグは二人の頭を優しく撫でながら、言った。
「お前たちは何かを探すより、まずはこれを覚えろ。」
彼は木の板に簡単な文字を書き、エナとリクに見せた。
「これ、何?」
「これは『水』って意味だよ。」
エナは目を輝かせ、「私も書いてみる!」と言いながら板を手に取った。
リクも続いて「ぼくも!」と声を上げた。
こうして夜の一時は、デバッグが兄弟に文字を教える時間となった。
翌日も日が沈むと、デバッグは家族全員を集めて簡単な勉強会を開いた。母が作った粗末な夕食を終えると、彼は自作の教材を取り出した。
「今日は、計算をやるぞ。」
「またかよ……」ロアがぼやく。
「兄さん、これは重要だ。計算ができると、畑の収穫量や必要な水の量を簡単に管理できるんだ。」
デバッグが説明すると、ロアはしぶしぶ板を手に取った。
エナとリクは「楽しい!」と目を輝かせている。
「ここに1つの種を植えて、次に2つ植えたら、全部で何個になる?」
「えっと……3!」
エナが答えると、リクも真似して「3!」と叫んだ。
デバッグは頷きながら言った。
「正解だ。じゃあ、もっと大きい数字で考えてみようか。」
こうして家族全員が少しずつ知識を増やしていく中、デバッグは次の計画を練っていた。
井戸の掘削が順調に進む中、村人たちの一部はデバッグの行動を快く思っていなかった。
「奴は調子に乗りすぎてる。」
ある男が不満げに呟いた。
「なんだって? あの子どもが?」
「そうだ。俺たち大人を差し置いて、勝手に何かを仕切ってる。」
その声を聞いたロアは、怒りを抑えきれずに立ち上がった。
「おい、弟に文句を言うなら、直接俺に言え。」
その場は収まったが、ロアはデバッグに忠告した。
「お前のやり方はすごいけど、村の全員が喜んでるわけじゃない。気をつけろよ。」
「わかってる。でも、結果を出せばきっと納得してくれる。」
デバッグの目には、強い決意が宿っていた。
井戸の水量が安定し始めた頃、デバッグは次の課題を見つけた。それは「食料の安定供給」だった。
「この村には水が足りなかった。でも、今度は食べ物だ。」
彼は地質と気候を調べ、村に適した作物を見つけるために動き始めた。
「兄さん、今度は俺たちで畑を作ろう。」
「また新しいことを始めるのか?」
「そうだ。村が変わるには、一つずつ積み上げていくしかない。」
デバッグの言葉に、ロアは少し迷ったが、最終的に頷いた。
「わかった。お前に協力するよ。」
こうして兄弟たちの新たな挑戦が始まった。
(第2話 完)
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