不思議な事故物件

十坂真黑

不思議な事故物件


 事故物件、ってあるじゃないですか。

 

 今は辞めてしまいましたが、私以前不動産会社に勤めてまして、そこで一度だけ自殺があった事故物件に触れたことがあります。

 と言っても、私が直接事故物件を案内したとか、そういう繋がりはありません。

 

 私の上司が案内したお客さんの部屋が事故物件となり、その数年後に入社した私がその話を聞かされた。それだけです。


 ですが、その自殺の状況が変わっていまして……今となっては真相を知る機会もないわけですが、この件が心に溜まっていたので、吐き出すためにエッセイにしてみました。


 謎が多くてモヤモヤしているので、我こそは!と自信のある自称名探偵の皆様に、ぜひ真相を解き明かしていただければと。


 ではあらましから。


 

 ※ちなみに、会話の内容などは詳しく聞いていないので、想像です。


 上司が案内した部屋は単身向け1K+ロフト。都内ながら人気のないエリアで、家賃は管理費など込で六万円弱。築浅なので相当安い部類です。


 その日内見に現れたのは、二、三十代の男性でした。一人暮らしのためのアパートを探しているそうです。


「いかがですか? ロフトがあるので寝室として使えますよ」


「いいですね。ここにします!」


 部屋を気に入ったようで、男性はその場で即決。


 すんなり話がまとまり、上司はるんるんで帰社。問題なく契約が進んだため、すぐにその物件のことは頭の片隅に追いやられました。


 それからほどなくして。

 くだんの物件の管理会社から連絡がありました。


「おたくで紹介してもらってあの物件なんですが……人死が出まして」


 何ヶ月も経たないうちの報告に、当然上司は驚きました。

 しかも、聞けば聞くほど状況がおかしい。


「亡くなったのは契約者ではなく、どこの誰とも分からない男性とその母親」だったそうです。

 

 まず「息子が死んでいる」と、死亡していた男性の母親から警察に第一報が届きました。

 警察が現場に駆けつけた時には、男性と、通報した母親と思しき女性も亡くなっていたそうです。

 よほどショックだったのでしょう。通報をした後、母親は自殺を図ったのです。

 ちなみにその男性はロフトの手すりで首を括ったらしく、今でもその部分がひしゃげているとか。


 この事件(?)は小さくですが新聞にも載ったそうです。某事故物件サイトにもしっかり記載があります。


 そのは新築に近い、かなり新しい部屋だったのですが、二人が亡くなった事故物件となってしまいました。しかも、亡くなった人の素性は分かりません。


 亡くなった男性(とその母親)は一体誰だったのか?

 上司が案内した契約者の男性はどうなったのか? 

 残念ながら詳細は上司も知らないようです。


 上司曰く、案内した男性はごく普通の人だったそうです。


 ※以下、余談になります。


 この出来事の責任を取って、うちの会社は立地最悪、かつ事故部屋まで抱えたこの負債物件の管理を任せられることになってしまいました。

 「よくも変な客紹介してくれたな!」ってことです。大人の社会は厳しいですね。


 幸い、次の入居者はすぐに決まりました。その方には事故があったことも隠さず伝え、特に値段を下げるようなこともありませんでした。

 どうやら全く気にしない方だったようです。

 五年くらい、その部屋に入居していただきました。

 問題は、その方が退去した後。

 

 国土交通省が制定したガイドラインによると、『自然死(病死など)や事故死以外で亡くなった場合(自殺や他殺でしょうか)、それから三年間経っていれば次の借主に告知する必要はない』となっているそうです。

 裏を返せば、三年以内であれば告知しましょうね、ということ。


 今回のケースだと五年は経っていますので

 、告知義務はありません。


 義務がないからと言って、心置きなくその部屋を何も知らないお客様に紹介できるかというと、もちろんそんな訳ありません。


 大変心苦しい。自分だったらそんな部屋、借りたくありません。多分、管理物件でなければ紹介しない。トラブルの元だから。

 しかし管理会社の立場としてはいつまでも空室にしておく訳にいかないので。素知らぬ顔で営業します。ただし自社付(他の不動産会社に部屋の紹介を頼まず、自力でお客さんを探すこと)。やはりトラブルの種なので。


 次にその部屋の入居を決めたのは、新卒のお嬢さんでした。

 とにかく不便な駅が最寄りのため、家賃をかなり下げていたことが決定打となったようです。

 案内は上司が行きましたが、重説(重要事項説明。部屋を買ったり借りたりする際に必須。併せて契約内容の説明などをする)の時は私が担当になりました。


 話している最中、「ここって過去に何かありました?」と訊かれたらどうしよう……と、ずっとヒヤヒヤしていました。幸い突っ込まれることはありませんでしたが。


 知らぬが仏。住めば都。

 そう自分に言い聞かせるほかありません。


 その他にもあって精神的にしんどくなり、私は会社を辞めました。

 

 この程度の話、不動産業界だけでなくどの業界にもあることなのでしょうが……次は心からお客様に寄り添える業界に転職したいものです。

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