世の中の仕組み

マロッシマロッシ

世の中の仕組み

 高級高層マンションの最上階に住む、世界有数の大企業の息子、貴広は健やかに育った。


 金持ちを鼻に掛ける事もせず、成績も優秀。運動神経も人並み以上。過分な評価無く、将来の国や父の会社を背負う存在だった。


 そんな彼が5歳から、現在の15になるまで辞められない趣味がある。屋上から、高性能の望遠鏡や双眼鏡で街の様子を見る事だ。


 他人のプライバシーを覗き見るのでは無く、スーパーや商店街の店舗の1つを数日間、長い時は数ヶ月観察を続ける。貴広は人の動きや購入した物、何を食べたか等を克明に記録した。


 彼の残したデータは父の部下の目に止まり、他地域で応用する事で利益を上げ、貴広が成長して記録するデータ程、莫大な物となった。家の執事や父の部下は歓喜したが、父の関心と感心は分からなかった。


 ある日、貴広は観察ターゲットを商店街の外れにあるラーメン屋に決めた。


 不思議な店だった。客は定期的に訪れるのに昼食時と夕食時には満杯にならないのにネットを調べると、十数年前から営業している。あの客の入りでは、料理の材料費も厳しいだろう。


 貴広は根気良く観察を続け、常連の客を分類した。


 20代の高級車をコインパーキングに止めて来店するブランド品に身を包んだ女性。


 30代から50代のネクタイを緩めに締めた、少し派手なスーツの5人組。


 40代の少し汚れた、青い作業服を来た男性。


 30代のスーパーや商店街の購入した物をエコバックに入れた子連れの女性。


 10代で隣町の私立高校の制服を来たカップル。


 偶に彼等以外の客も幅広い年齢層で来店するが、半年の間で2度と来ない客ばかりだった。調べても、外注を受けている形跡は無し。常連の客単価が高いのか?それだと、美味い筈だから他の客も足繁く通うだろう。親戚の集まり?それこそあり得ない。


 貴大に取っては非常に好奇心を唆られて、直接来店をしたいが世界的大企業の子息である為、無用な犯罪遭遇リスクを減らす為に立ち入ってはならないエリアだった。


 名残惜しいが貴大はラーメン屋の観察、調査を諦めた。自分が会社の売上に貢献している事や父の関心と感心の為に好奇心を閉じ込めた。


 3年後、貴大の趣味は続いていた。大学生になり、スーパーや店舗を観察して得たデータは良いこづかいになった。


 今日も開店したばかりの飲食店を観察し終わり、何気無く双眼鏡を覗いたまま横を見ると目に入ってしまった。あのラーメン屋が…。


 蓋が外れた好奇心が溢れ出した。望遠鏡を移動させて、あの頃の定位置へ。3時間の間の客も、あの頃のままだった。


 明日は午前中、家を訪ねる人間もいない。執事は休み。もう自分は大学生だ。1人で出歩いても良いだろう。


 翌日。貴大はキャップを深く被り、外に出た。服装もヨレたシャツにダメージデニムにメーカーの分からないスニーカーだ。誰も金持ちの息子とは思わないと考えて…。


 憧れにも似たラーメン屋に到着。店に入ってランチセットを注文した。


 3年前に見た、ブランド品に身を包んだ女性が入って来た。10分後に何も話さず、店の大将から袋を受け取り店を出た。


 3年前に見た、子連れの女性が10分後に何も話さず、店の大将から袋を受け取ろうとしたら、互いの手が当たり、床に落ちて白い粉が入ったパケ袋が滑り出た。


 金持ちだが、それ程世間知らずでも無い貴大は20分以上待っても来なかったランチセットを食べずに逃げた。


 そうか、そんな店があるから街への立ち入りを禁止されていたのか…。安全な場所から、警察にれん…。


 後頭部からビシュッ!と音が鳴り、貴大の思考は途絶えた。


 貴大の父は報告を聞き、悲しみと共に怒髪天を衝く怒りを周りに示した。


 金を湯水の様に使って警察を指揮、件のラーメン屋とその背後に顧客を生きているのが辛いと思わせる程に徹底的に潰した。


 ラーメン屋があった周りは、貴大が蓄えたデータを元に街づくりが行われ、長く平和に賑わった。



 件の壊滅作戦に参加した、刑事の西宮は解せなかった。あのラーメン屋は自分が上層部に何度掛け合っても、証拠不十分で捜索令状すら出なかったのに…。


 先輩刑事から缶コーヒーを渡されて、肩をポンと叩かれて言われた。


 世の中、そんなモンだよと。







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