遺書

微風 豪志

遺書

___人の迷惑になってしまうことが恐ろしくて、生きていくのが辛く、決心を固めました。なんとお詫びをしたらいいのかわかりません。皆さまそれではどうかお元気で______


死神「...素朴、質素いや簡素か?」

僕「...」

死神「いやぁ、死ぬほど面白くないねぇ」

そう言いながら死神は僕の遺書をヒラヒラとなびかせている。

死神「まずさ、書き方が全然なっちゃいないんだよ、この遺書を読んだ家族あるいは友人や会社の人がこれを読んで納得するのか?

僕だったら納得できないなぁ...」

僕「...」

死神「まず第一にこの遺書からはエンタメ性が感じられないよ。

なぜ死んでしまったのかと言う事がこの遺書を始めて読んだ人でもきちんとわかるように書くべきだよね」

僕「...はい」

死神「あのね、遺書ってのは残された家族のことを想って書くべき物で、例えばこの世に未練がない奴、もしくは自分が死んでも悲しむ奴がいないのならわざわざ遺書なんて残さないのよ、残された人に自分のことを忘れてほしくないから書くものそれが遺書だと僕は思う」

死神はカタカタと首を縦に振っている。

死神「お世話になったんでしょ?いろんな人に、じゃあその人達のことを想って書かなきゃ」

僕「俺の事想って泣いてくれる人はもういませんよ」

死神「なんだいあんた家族は?」

僕「先日母が亡くなって、もういません」

死神「友人は?」

僕「もとからいません」

死神「じゃあ、恋人は?」

僕「友人よりハードル高いんですから居るわけないじゃないですか」

死神はまたカタカタ笑う。

死神「ひとりぼっちでいいじゃない、気楽に生きていけるしさぁ、別にいいじゃないの」

死神はひょうたんのキャップを外して中の酒を何処からか取り出したお猪口に入れて僕に差し出してきた。

死神「辛い時は飲むんよ」

沈黙の中。酒を啜る音がやけに響いて、自然と涙を浮かばせる。切羽詰まった新内環境をポツポツと吐き出したら、意外にも熱を帯びて...

僕「頑張って、努力したつもりだった、でも周りと比べたら全然できてなくて、悔しさと虚しさで心の中一杯になってさぁ!頼れる人ももういないし、歳とりすぎて今からやり直すなんて不可能なんじゃないかって!誰かを助けて救われて気づいたら恋に落ちて、そんな幻想が、幻想がラノベにはあった。ずっと現実から目を背けて食い入るように過ごしてたら、いつのまにか友人は離れ、親が死んで、ひとりぼっちで虚しい人生だなって自分でも思うけど、もう遅いんだよ!俺に何ができるんだよ?俺にさ、こんな俺なんかにさ?」

死神「だいぶ辛そうだな、それでも生きろ」

僕「なんで?」

死神「生きていくのに理由なんてないんだ。人類が生まれてから何万年の間繋がれてきた命のバトンを次に繋げろとはいってねぇ、お前が末代だって言うのなら末代らしく大輪咲かせてから逝けや、夢からは逃げるなよ、せめてなりたいもんなってから死のうや兄弟」

僕「俺なんかにゃ無理さ」

死神「そりゃ無理さ、同じ夢描いてる奴がこの世に何万人居ると思ってるんだ。お前なんかにゃ逆立ちしたって勝てやしないかもしれないが、でもやってみなきゃわからんでしょう?0と1は違う」

僕「そいつは....」

死神「だろ?死ぬことなんざいつでもできるが蘇ることは叶わない。たった一度の奇跡みたいな[人生]をどう使うかはお前次第さ」



_____酔いが覚めれば死神は

そこから姿を消していた。

死神に勇気づけられたわけでは断じてないが

僕はもう少しだけ生きていこうと思った。

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