第3話 消せない連絡先

 子供2人も小学生になり、子育てもひと段落した私はパートで働きに出ることにした。大きな会社の小さな営業所の事務員。それが私の仕事だ。私はそこで彼と出会った。最初のイメージはこんな人いたかなと思うくらい地味な人だった。でも勤め出してしばらくするとその人が周りからの人望があついことを理解した。営業先から帰ると事務員に「いつもありがとう」とお菓子を買ってきてくれる。どんなに若い社員に対してもいつも敬語で丁寧に接してくれる。私がそんな彼に興味を持ったのも不思議ではない。周りの事務員に彼のことを聞いて、彼が私より5つ年上であること、独身であることなどを知った。自分の今の生活を壊す気はないけど、私は自然に彼が好きになっていた。そんな彼が膝を壊し、仕事を辞めることになった。時期も時期だけに送別会は出来なかったけど、みんながお金を出し合い彼が好きな麒麟のラガービールを箱で贈った。ただそれだけのあっけないどこにでもある別れだった。あれから3年。今でも仕事の都合で交換していた彼のLINEは消せない。私はもしあのときとか後悔して、自分の今を守りたいと保身をしているのに、彼と一緒になっていたらと未だに妄想している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る