第9話 伯爵家での立場(7歳~12歳)


 あらすじ:『天賦の女誑し』なんて言われるようになってしまった俺。12歳に付ける異名か?


 …一応、心当たりが無い訳ではない。

 それは俺がこの世界の人間全員を美形だと思っていることに起因する。


 7歳から様々なお茶会に参加してきたが、10歳くらいの頃にリリーナに言われたことがある。

「アマデウス様は身分が下でも容貌があまり良くない者でもとてもお優しく接するものだから、わたくしのお友達の間でも人気がおありなのですよ」


 容貌で差別しないの偉いね!と言われましても、えっとすいません、美醜の判断と区別がついてないだけです…と目が泳ぐ。この世界の子供、総美ショタ美ロリ。

 勿論見た目で態度を変えるなんて失礼なことをするつもりはないのだが、頭ではそう思っていても人間案外態度や顔に出てしまったりするものだ。前世の知り合いで不細工には露骨にぞんざいな態度になる人はいた。美形を目の前にするとついつい緊張して声が上ずってしまったりなら覚えがある。容姿で差別される側はそういう些細な態度の違いに敏感な人もいるのだろう。おそらくそういう人から見ると俺はとても公平な態度の人間に見えるのだ。

 因みにリリーナの友人達の顔は大体知ってるがもれなく全員可愛い。告白されたとしたら全員にオッケー出してしまう。


 俺から見たら全員顔が天才なのにも関わらず、この世界の人間は結構見た目にシビアなようで。率直に悪口をいうことは流石に少ないものの不細工な人間には愛想がむちゃくちゃ悪くなりがちだ。

 お茶会で令息達が特定の令嬢には妙に冷たいな、とか令嬢達が全く近寄らない令息がいるな…とか、俺は少しずつそれを理解した。


 でもさぁ。

 その辺の気の良いおっちゃんだと思ったら勤め先の社長だったみたいなことがあるかもしれないじゃん!

 いや偉い人だから愛想をよくしろって話ではないんだけどぉ…誰にでも笑顔で気持ちよく買い物してもらうのが接客のプロってもんだろ?!

 …別にこの世界の人接客のプロじゃなかったわ…

―――――――と一人脳内でワチャワチャしたがとどのつまり、俺は八方美人なのだ。

 日本人の美徳とも言われるお・も・て・な・しの精神で、どんな女子にも優しいので無類の女好きだと思われている。らしい。男子にも優しくしてるよ!


 また、11歳の頃に起きた、俺を誘惑しようとしたメイドが二人解雇された、という事件の噂も女誑し説の裏付けみたいになっている――――― あれはビックリしたな……

 ティーグ様が穏便に処理してくれたそうなのだが人の口に戸は立てられず、ヒソヒソと広まった。


 そして今日、シレンツィオ領主催の大規模なお茶会に出ている。

 今日のお茶会は、子供は貴族学院入学前の12歳までしか出席していない。国の貴族の子が貴族学院に通うのは13歳から18歳だ。学院時代は、将来仕事で付き合う相手と交流を深めたり、家の跡継ぎ以外は学院で勤め先を模索したり、婚姻相手をさがしたりする重要な期間である。学院に入る前に方々にご挨拶しておくのは円滑な学院生活を送りたいならやっておくべきミッションだ。


「デウス、王女殿下にご挨拶に行きますか?私は緊張してしまって一人では無理です…ご一緒して頂けると…」

 リーベルトはもじもじしながら俺を窺った。頬染め上目遣いかーわーいーいー。


 昔は俺の方が身分が下だったからリーベルトを様付けして、今は俺が上になったのでリーベルトは俺を様付けしないといけないが、仲良しなのでプライベートでは呼び捨てし合っている。リリーナも俺を呼び捨てにしてくれて構わないのだが、「アマデウス様の追っかけに悋気を起こされても面倒ですから」と様付けを崩さない。


「お兄様ったら根性なしですわね、まぁこの機会を逃すと学院でもお近づきになるのは難しいかもしれませんし、麗しいご尊顔を間近で見たい気持ちはわかりますが」

 リーベルトがうるうるしてるのに対し一つ下のリリーナの方が肝が据わっている。

「そうですよ、デウスも行きたいでしょう?!ね!」

「私は別に…王族への挨拶って緊張するし、しなくていいならいいかなって…」

「えー!?デウス、女誑しの肩書が泣きますよ!!」

「いらないんですよねその肩書。泣いて家出してくれた方が良いです!」


 公爵様までならアルフレド様に何度も挨拶しているので心構えがあるが、王族となると恐れ多い気持ちが上回る。

 確かに遠目に見てもお人形さんのような美少女だが、他の少女も皆美少女だし…

そもそも俺は精神年齢的に自分より年下に下心を持って近付くのは忌避感があった。

やっぱ…子供、だし。


 17で転生してもう12年生きている訳だが、体と精神は連動しているので大人としての積み重ねをしている感覚はなく、気持ちとしては20歳くらいの気分で過ごしている。20歳から見て10歳そこらの女子に恋をするのは、『合法だけど、…ヤバい!!』と前世の常識がブレーキをかけてくるのだ。

 同い年だと意識してしまうところはあるし、15歳くらいから上だったら40代くらいまで余裕で恋出来るけど。こちらの人間は40代でも30代前半の美人妻くらいにしか見えんので。


 それに、俺はスカルラット伯爵におそらく政略結婚の人材として望まれている。

 その為軽率にその辺の女子とお付き合いすることは出来ない。


 純粋に親切心で俺を引き取ってくれた部分もあるだろうが、やはり引き取るからには俺には期待されている役割がある。跡継ぎが既にいる伯爵家にとって養子を取って育て上げるメリットは、十中八九縁談による家の勢力強化だろうと予想する。

 多少は俺の気持ちを汲んでくれると思うが、ティーグ様が縁談を持ってきたら断れないと思った方が良い。


 ―――――――まぁ、十中八九俺は大丈夫だけど。

 この世界の人間の顔、総じて好きなので…

 性格が悪くても顔が良ければ許せてしまう気がする。流石にこっちを殺そうとしてくる人とかは無理だが……

 そこまで問題のある相手はティーグ様も流石に選ぶまい。


 王女殿下に挨拶に行く行かないでウダウダしていると、美少年三人組を発見したので駆け寄った。

「アルフレド様!御機嫌麗しゅう!」

「おぉ、アマデウスか」

「ハイライン様、ペルーシュ様も、ご機嫌よう」

「聞いたぞアマデウス。また何か変なことをやったそうだな」


 意地悪そうな顔を作って見下してくるのはハイライン様。俺がお披露目で彼より上手い演奏をしてからよく突っかかってくる。

 光の加減でピンクっぽさが混じる銀髪を後ろで一つに縛った、紫の瞳の美少年である。


「変なこと?どれの話です?」

「複数心当たりがあるのか…私が聞き及んだのは楽団を組織して平民の前で定期的に演奏しているというものだ。そこで金をとっているとか。貴族としての矜持がないのか?自ら見世物になって金を集めるなど…」

「あぁ、定期演奏会のことですか。別に変じゃありませんよ、私も民も楽しんでるし。ちょっと個人的にやりたいことがあって資金も集めたかったので…」


 ハイライン様は嫌味が通じなかったと思ったのか険しい顔をしたがアルフレド様は面白そうに神々しく笑った。相変わらず大天使である。


「何を企んでいるのだ?前に話していた新しい楽器か?」

「それも進めてるんですけど!まだ上手くいくかわからないので現実味が出てきたらお話しします」


 伯爵家の資金のおかげで色々やりたいことは広がったがとりあえず今は金策に励んでいる。前世の考え方に基づいたアイデアはこの世界の人からしたら突拍子の無い発想に聞こえるらしく、『天才』と言ってもらえたり『変人』と呆れられたりする。


 大天使高貴美少年アルフレド様、プライド高々美少年ハイライン様、無口なクール系美少年ペルーシュ様とリーベルトと俺はこの5年弱で結構仲良くなったと思う。リーベルトは最初家格が上の3人組に少しビビっていたが今では大分慣れたようだ。


 他愛のない話をしていたら、アルフレド様がふと真顔になって俺をじっと見つめた。

 何だ何だ。

 男といえど大天使なので見つめ合うとドキッ…フワッ…としてしまう。フワッとは背景に花が舞う幻聴である。

 俺は女の子が好きだが、この世界の美男になら真面目に愛を告白されたら勢いでオッケーしてしまいそうなので気を付けたい。抱かれたい、とまでは思わないが 抱かれてもいっか…くらいは余裕で思えるので危ない。


「どうかされましたか、アルフレド様」

「…アマデウス。お前を稀代の女好きと見込んで、頼みたいことがある」



 待って!!!!!! そんな見込み方はやめて!!!!


「いやあの、違うんですよぉ…私は別に女遊びしてるとかそういうことはなくてですね」

「わかっている、お前が女性を弄んでいるとは思っていない。お前はただ女性に優しいだけなのだろう。どんな女性でも良い所を見つけて好ましく感じることが出来る、それはお前の才能だ。褒めているんだぞ」

「は、はぁ…」


 ストライクゾーンがだだっ広い、天性の女好きだと思われとる……。

 女の子が好きであることは否定しないけど、別にそういうんじゃないんだよな。全員顔が良いと思ってるだけで。

 アルフレド様は何かを決心するような覚悟のある顔で言った。


「これから、シレンツィオ公爵令嬢、ジュリエッタ様にご挨拶しに行こうと思っている。一緒に来てほしい」

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