第2話 仕返しはやめて

 ロペは今の食べたものは何だろうかと朝の市場を歩いていた。何か焼いたものだが、喉に引っかかるものがある。骨でもなければウロコでもない。ただイガイガする。首を傾げながら、少し違うもので流し込もうかと瑞々しい果物を買い求めた。ナイフで皮を削いでシャリシャリな果実を食べると、いくぶんひどくなってきた。喉の中で反応を起こしてもともとの美声が枯れてきた。

「まずったな」

 外套の下にガンベルト、ホルスターには銀の中折式のシングルアクションリボルバーを携えて旅に出ていた。女が旅に出るには、これくらいの装備はいるだろうと言われ、知り合いに譲ってもらったものだ。たまに手紙を送るのだが、あの人は読んでくれているだろうか。帝都の賢者とも言われた大魔法使いシュミットは帝都から田舎にこもったまま出てこないという噂は聞いていたが、こちらから会いに行くのもいい。

 ひとまず村を出よう。

 弾も心許ない。銃に合う弾を拾い集めたが、このままでは玉石混交で撃ち合いには使いたくない。

「やっぱシュミットのくれた弾は一級品だな。銃口から出てくる魔法が違うんだよな。もう撃ち尽くしたしなあ。稼がせてもらったけど」

 そろそろ旅も飽きてきたし、どこかに落ち着きたいななどと考えることもある。そうなれば自然と彼のことが頭に浮かんでくる。

 ラバに揺られてうとうとしていた。森に入ると、枝にしゃれこうべが吊るされていて、大腿骨が吹き抜ける風でカタカタ鳴っていた。頭上から視線があるような気もするが何もしてこないのでそのままにしておこうか。撃鉄を起こしておいた。

「ほら来た」

 ロペはラバから茂みに飛び込んだ。ラバも一緒に茂みに飛び込んできてロペを踏みつけて去った。

「あんの野郎」

 同時に銃声が響いた。茂みを這うように樹の裏へと隠れた。

「てめえか弟を撃ち殺したのは」

 どこにいる。

 てか、弾が心許ない。ポケットを探ってみたが、いくら数えても十二発とよくわからない弾が入っている拳銃が二丁、これまたよくわからない弾と引金を引きたくない、銃身を短くしたショットガンが一丁。たぶん持ち主は引金を引かずに逃げていた気がする。持っていれば使いたくなるのが人の心の弱さだ。捨ててしまえば使わずに済む。湿気た枯れ葉の積もる道へ投げ捨てて、違う幹へと走り抜けた。いかつかの銃声が追いかけてきたが、下手くそにもほどがある。見つけた。一人の影に誰のものかわからない拳銃の引き金を引いた。軽く肩をかすめたらしく、うずくまるところを間合いを詰めて撃鉄を起こして脳天に突きつけた。

「動くな。仲間が殺されたくなければ銃を捨てて出てこい」

 ロペは言うと、髭面の男を道へと歩くように命じた。余計な動きをすると撃つ殺すと脅した。

「わかった」

「仲間に命乞いしろ」

「情けなくてできねえよ」

「殺されたいのか。おまえら子どもじゃないか」

「出てこい。ガキのくせに生意気なことしてんじゃないわよ」

 三人が出てきた。もう一人と告げると渋々、三人の視線の向こうから少し歳かさのある男が現れた。それでもロペよりも十も上ではないはずだ。せいぜい五歳くらいか。

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