第5話 罪
ルイはふらついた足取りで、倒れ込むように家に入った。喉は潤い胸のうずきはなくなったが、罪悪感が岩のように重く心にのしかかっていた。
ぐったりと体の力を抜いた少女の重みが、まだ腕に残っている。自分が立てた牙で喉元についた赤い痕も、息絶える前に一瞬痙攣した様子も、目にくっきりと残って離れない。
体が活力を取り戻していることに、ルイは絶望していた。勇気さえあれば、今すぐこの呪われた存在を殺してしまえるものを。
ルイは顔を覆った。止めようにも止められず、涙があふれた。自分には流す資格のない涙だが、堪えられなかった。微かにうめきながら、ルイは心の底から死を願った。
ルイの住所も連絡先も知らないので、マシューが彼に会いに行くすべはなかった。わだかまりを心に抱えながらでは仕事がなかなか進まず、連日にわたって深夜まで起きていることになった。繰り返し浮かぶのはルイの悲しそうな表情で、それがマシューの心を苦しめた。自分にできるなら、そしてルイが望んでさえいれば、彼をどうにか慰め、癒してやりたい。しかし相変わらず、ルイに会う機会はなかった。
ある日の深夜、堪りかねたマシューは散歩に出た。仕事のことを忘れ、頭を冷やしたかったのだ。足は慣れた道、図書館への道をたどっていた。
図書館はアカバニラの並木が植えられた大通り沿いにある。ゆっくり歩いていきながら、ルイが描いた絵に木々があったのを思い出した。幹の凹凸も、葉の照り返しの輝きや艶も、細かく正確に捉えられていた。ルイのそばにいて、四季を通じて変化していく木を彼が描くのを見守りたいと思った。折しも十月で、アカバニラは紅葉を始めていた。
足を進めながら、どうしてこんなにルイに惹かれるのかと考えた。それはおそらく、ルイとの沈黙が苦痛でない理由と同じだった。ルイとマシューとは世界の捉え方が似通っていて、お互いの感覚を尊重しながら共有することもできる。ただ、それとはもっと別のものが、二人に宿っているような気もしていた。マシューが感じているものを、ルイも感じているに違いない。
木の下で立ち止まる。ルイが自分を描いたらどんなふうか、想像してみる。
空を見上げると、星が瞬いていた。
踵を返し、マシューは家路についた。ルイに会いたいという思いが、炎のように燃え上がっていた。
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