第4話 少女
ある日、珍しくルイが図書館に来ていなかった。スケッチを見せてもらって以来、カフェで会うこともない。偶然会えないかと足を運んでみても、ルイの顔は見かけなかった。
落胆しながら席に着く。行きつけのカフェなのに、ルイがいないとそれだけで味気なく感じられる。
心ここにあらずの状態で紅茶を飲んでいると、隣の席のグループの会話が聞くともなく聞こえてきた。
「……かわいそうにねえ。まだ四歳だったのに」
「なんの病気でもなかったんでしょう? 親御さんはやりきれないわよ」
「こんないきなり亡くなることがあるなんて、びっくりね……」
ルイがいない。心にぽっかり穴があいたような気持ちで、マシューはアレンカ・アンブロシュの詩集を開いた。
寄せてきた波が 砂浜の絵を消していく
もう一度寄せてきて 砂の城を崩していく
波 それは時間
すべてのみこみ 砕いていく
詩についていた注を見ると、これは作者の晩年に作られたものらしかった。人が生きた痕跡や証拠をきれいさっぱり洗い流す時の流れについての詩。いつかマシューも波にのまれ消えるのだろうか。それにしたって、四歳の少女はまだ消えてしまうには早すぎる。
マシューはカフェを出た。ルイに会えないこの心の空洞もまた、いつか時が消し去るのだろうかと考えながら。
その日以来、ルイに会うことはぱったりとなくなった。
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