第26話親子コラボ配信1

「いぇーいリスナー君見ってる〜??今日は〜、君たちの推しのあやちゃんをめちゃくちゃにしたいと思いまーす!!」

「あぁ、やっぱりあの時私が止めるべきだった……」


配信開始と同時にとんでもない事を言い出した先輩を前に、頭を抱えながら呟いていた。なぜこうなったのかは数日前の一件のチャットに遡る。




『コラボ配信をしよう』


雑談配信のはずがなぜか結婚発表配信のようになってしまった次の日、朝起きるとママこと神楽耶先輩から個人チャットが来ていた。なぜ私の所属してる事務所の人はコラボの誘いが急なのか。別にいいんだけどね!


『もちろん大丈夫ですよ。何をするとかは決めてるんですか?』


そう返信を送った数秒後、すぐに返信が来た。


チャットアプリ

<星野神楽耶>・二人でできるゲームをやろうかなって思ってるんだけど、協力系か対戦系かどっちがいい?

<星月綾華>・対戦系はボコボコにされる未来しか見えないので協力系で……

<星野神楽耶>・了解ー。あ、あとよかったら私の家で配信しない?

<星月綾華>・いいんですか!?ぜひぜひ!!

<星野神楽耶>・よし、じゃあ決まり!住所はまた後で送っておくね。ちゃんと当日は可愛い下着で来てね♡


最後の一文は既読スルーを決めて私は朝食の準備をした。



──コラボ当日──


私はマップを見ながらママが送ってくれた住所に着いたのだが、あまりお金持ちではない私でも一目ですごいお金がかかりそうってわかるタワマンに着いてしまって住所間違いかと何回も確認していた。


チャットアプリ

<星月綾華>・すみません送ってもらった住所に着いたんですけどこの住所で合ってますか?

<星野神楽耶>・合ってるよー。そういえば入り方教えてなかったね


その後色々マンションへの入り方を教えてもらって、やっとママの部屋前まで来た。タワマンの入り方とか知らなすぎてもう何もかもが別世界感で眩暈がしてきた……。


「いらっしゃいあやちゃん!わざわざ来てくれてありがとう!」

「いえいえ……こちらこそお誘いありがとうございます……」


配信でもうママに緊張しないって言ったな、あれは嘘だった。緊張しすぎて吐きそう……。


「あやちゃーん?ほら早く中入っていいよ?」

「あ、はい、お邪魔します……」


部屋の中はそれはもうすごかった。はるか昔の子供の頃に家族と行った高級ホテルみたいな部屋。すごい失礼だけどママのことだから少しきたない部屋とかかもって思ってたのに……。


「あやちゃん絶対今失礼なこと考えてたでしょ」

「なんでわかったんですか」

「そりゃ後輩が考えてることくらいなんとなくわかるよ。多分部屋の綺麗さに驚いてるんだろうなーって。どう?当たった?」

「はいはい正解ですよー、あとはママのことだからえっちぃ本とかそこら辺にあってもおかしくないって思ってました」

「そうゆう本は全部電子だよ。あと部屋が綺麗なのは母のところのメイドさんが掃除してくれるからだね」

「メイドさんまでいるなんてすっごいお金持ちなんですね……」

「まぁ母が結構有名なブランドの社長だからねぇ」


どこのブランドか聞いたら、あまり詳しくない私でも聞いたことあるくらい有名なところだった。そりゃこんな感じの部屋に住んでてもおかしくないよね。


「とりあえず荷物はここら辺に置いておいていいよ。あ、そういえば」


そう言葉を区切ってママは私の方へ振り返って近づいてきた。そして私のワンピースのスカートをめくってきた。………すかーとを、めくった?


「ふーん、白か……。いいじゃんとってもえろかわいぐはっ!」


変態が何か言い終わる前に鳩尾に渾身の右ストレートをねじ込んだ。鳩尾を押さえて倒れ込む変態、見られた恥ずかしさから座り込む私、他の人が見たら軽い地獄絵図だったと思いました。



「あやちゃんごめんね、とっても可愛いパンツを脳裏に焼き付けたことは謝るからそろそろ機嫌直して欲しいな」

「本当に謝る気あるんですか?その言い方全く反省してないですよね?見た事を忘れるくらい脳みそに衝撃与えた方がいいですか?」

「あやちゃんさっきのことは本当に悪いと思ってるよ、ごめんなさい。だから私の液タブを持ち上げて殴ろうとするのはやめてほしいな」


私は配信の準備をしながら変態からのセクハラ事件の謝罪を受け入れていた。私も反射で鳩尾を殴ってしまったので見られたことは対して気にしてないけど、言われたら言われたでちょっとムカつく。液タブから手を離してまた準備を再開した。


「私も殴っちゃったのでお互い様です。というか結構強く殴っちゃったかなって思ってて……大丈夫でしたか?」

「んー、あやちゃんの力が弱いからかもしれないけど痛いというより衝撃が来てって感じだったから全然平気だよ。元はと言えば私が見なければ殴られてないしね」

「それはそうです」


「確かに」と言いながら笑っているママ、そのままママは手元の缶をゴクゴク。


「……私結構昔からママの配信見てるんですよね」

「あやちゃん急に嬉しいこと言ってくれるじゃん」

「それで何回かお酒飲んでるところ見たことあるんですけど、その時の配信のアーカイブ、どこに行った?」

「……君のような勘のいい後輩は好きだよ」


私はその返しを聞いた瞬間ものすごい嫌な予感がした。ママは配信で何回かお酒を飲んでいたことがあるのだが、毎回とんでもない下ネタを言ったりするせいか、一時的に収益化が逝ったりBANされかけたりと色々起こしていた。確かイラスト描いてBANされかけた時も飲んでた気がする……。

そんな事を思い出していると、少し赤い顔をしたママは新しい缶を開けてそのまま配信開始ボタンを押した。


「え、ママちょっと……!?」


画面に私たちのアバターが映し出されてどんどん視聴者さんの数も増えていく。


「いぇーいリスナー君見ってる〜??今日は〜、君たちの推しのあやちゃんをめちゃくちゃにしたいと思いまーす!!」

「あぁ、やっぱりあの時私が止めるべきだった……」


───そして冒頭に繋がるというわけである。

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