前編-③
「そんで、ママはどうしたいのー?」
「ん~~ちょっと困ってるとこ。フレックスがいなくなるのは嫌だし、かといって断ったら反逆罪って言われちゃうとねぇ」
そう言いながらハルハは味見をする。今日の夕食はメルメの好物のオニオンスープなようだ。デザートはおそらくリンゴのタルトだろう。
「フレックスはどう思う?」
卓上小型端末の私にメルメが話しかける。
「ばルばロッサ提と…辺境伯ハ、見かけによらず話せばわかる人です。ですが最近の連合国軍のやり方を考えると、おとなしく私を引き渡すのが妥当かと」
「でも、使命回路ってやつのせいで100%の力は出せないんでしょ?そんなんで行ってもスクラップにされるのが落ちじゃない?」
「私、そこまで弱くハありませんよ」
「タレコミからわかった戦力と、今の第9コロニーの残存兵力を考えると、帰還できる可能性はどのくらい?」
ハルハの落ち着いた声がキッチンから聞こえる。彼女が聞こえやすいよう、私は端末のスピーカーの音量を上げた。
「現状だと五分五分といった感じです」
「もしフレックスが100%の力を出せたらどのくらいなの?」
「状況と環境次第ですが…第9コロニー周辺での戦闘想定で、低めに見積もって75%。離脱のみを優先するならば90%弱といったところかと」
「あんたそんな強いの……つーか、どうしてタレコミの中身まで知ってんの」
目を丸くしながらメルメはハーブティーをすする。
「ばルばロッサ辺境伯のお連れの方が持っていたタぶレットをはックしました。今やあれは私のものです」
「すご。あんたそんなこともできるの」
「私ハ特注品の専用機です。電子戦も当然想定の範囲内、むしろ一番得意だと自負しています」
「嘘くせ~」
私を小突きながら、彼女が2杯目のハーブティーをカップにそそぐ。
「食事前のお茶の飲みすぎはマナー違反ですよ、メル」
「話そらさないの。大事な話の途中なんだから」
「メルこそ、今話をそらしましたね」
「む~~っ」
「こらこら、ケンカしないの」
ハルハも席に着こうとする。が、よろけてテーブルを勢いよくつかんでしまった。テーブルがガタンと揺れる。
「ちょっとママ大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。ごめんなさいね」
「私がごはんよそったげるから、ママは座ってて」
そう言うとメルメはどたどたとキッチンに駆けていく。
「ねぇ、フレックス」
「なんでしょう?」
「ちゃんと脚が動く私と今のFlat-Loader-EXTRAだったら、帰還率はどの程度?」
「帰還率・勝率ともに99.00%です。加えてあなたの操縦であれバ、連合軍の援護がなくとも殲滅できるでしょう。」
「当時の私なら援軍なんて邪魔だって言ってたかしらね。ちなみに残りの1%は?」
「あなたが前日に酒を飲み過ぎて二日酔いになる確率です」
「そんな確率高くないわよー、ポンコツ」
足を気にしながら食前酒を注ぐ彼女を見ると、使命回路が熱を帯びる。これは美術品を見る時の感動か。それとも美術品に傷をつけてしまったことへの悔恨だろうか。
「私の使命を変更することハできないのですか」
「ハード方面ならなんとかできるけど、ソフトは完全にジェイクまかせだったし、ダメね。それにその使命は、彼が設定したものだから」
そう言いながら彼女は机の上の写真を手に取る。まだメルメの父が生きてた頃の、数少ない家族3人でとった写真だ。
「すみません、頭でハ理解していたのですが……。聞くべきでハありませんでした」
「いいのよフレックス。人はいつか死ぬものなんだから。ジェイクはそれが私たちより少し早かっただけ」
「何々?父さんの話?」
両手にトレーを抱えたメルメがやってくる。
「パパにどうしようかなーって聞いてたとこよ、さぁ食べましょう」
「いただきまーす」
2人が食事をする間、私は戦場の再現と敵機のシミュレーションにメモリを限界まで割り当てることにした。
彼女のためにも、私は絶対に死ぬわけにはいかない。
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