前編-②

「あれ、お客さんかな」


家に近づくとの黒い人影が2つ、カメラアイの視界に入る。ハルハが玄関先でその応対をしていた。片方には見覚えがある。バルバロッサ提督、かつての私の上司だった人物だ。


提督と目が合う。念のためカメラアイをフォーカスし、ジェネレータのギアを上げる。使命回路がチリチリしだした。


「お久しブりです、ばルばロッサ提督」

「今は第9コロニー辺境伯だ」

「おっとこれハ失礼。最近はネットワークもオふラインにしているもので」


見定められているように感じる。


「……エクストラのメンテは行き届いているようだな」

「はルのメンテナンスはいつも完璧です」

「この通り、言語回路にはガタが来てるけどね」


突然の来訪者の割に、ハルハは落ち着いている。


「戦闘行動には関係ない項目だ。問題ない」

「それでウチにどんな用で?」

「……近いうち、コロニーの独立を掲げたレジスタンスが蜂起するとのタレコミがあった。エクストラ、お前の力が必要だ。」

「確かに私はそれなりに強いですが……最新鋭の量産機に比べると型落ち品ですよ?」


こほん、と彼が咳払いする。これは彼が正直にものを話すときの合図だ。


「必要なのは戦力ではなく偶像としての君だ。エクストラの再来というだけで、現場のモチベーションは格段に高まる。それに<月光>の―――」

「娘の前でその話はやめて」

「おっと失礼、娘がいたのか。搭乗中かね?」


そんなことも事前に調査済みだろうに。白々しいぞ、辺境伯。


「ばルばロッサ辺境伯、直々のダンスのお誘い大変喜バしいのですが、私の現在の使命ハ敵機殲滅ではなくこの子を守ることです」

「ほぅ。つまり?」

「戦場にいてはこの子を守ることはできません。それに今の使命回路の設定が敵機殲滅ではない以上、たとえ戦場に立ったとしても以前のような力は発揮できません。せいぜい高周波ブレードを振り回すのが関の山です」

「そうか……それは残念だ」


そういうと、バルバロッサ辺境伯の隣の男が書簡を取り出す。


「これはコロニー連合国ハイリディン大統領閣下の勅令であり、従わなければ反逆の意志ありと解釈されます」

「……一応聞いとくけど、反逆者への対応は?」

「労働力の接収および再教育委員による1年の指導教育となります」

「要するに収容と拷問ってことね」

「……まぁ、そういうわけだ。私としても退役した君らにまた戦場に立てとは言いたくはないが、これは私の意志決定を超えたものであると理解してもらいたい」


せっかくハルハお手製のハーブティーが飲めるというのに、また来るとだけ言い残すと彼らは去っていく。


「なんなのあいつら!母さんの足のことも知らないで!!」

「シッ、彼らに聞かれますよ。それに足のことハご存じのはずです」

「むーーー。でももし聞かれてたとしても、使ってやつであんたが守ってくれるんでしょ?」

「極力善処します」

「……なぁんだ、結局あんたも軍事用ロボットってわけね」

「まずハ目の前の仕事を片付けましょう。どうするかハそのあとで」

「はーい」

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