前編-④
シミュレーションを繰り返す。撃墜、撃墜、被弾、マニピュレーターが破損、撤退、ブースターがオーバーヒート、装甲破損、遮蔽物なし、ジェネレータに直撃。ダメだ。100回のシミュレーションで形を残して帰還できたのは7回だけ。やはり私の力だけでは、あの戦線を潜り抜けられない。
ぎぃ、と音がする。誰かが納屋のドアを開けたようだ。メルメが様子を窺うように姿を現して、私の前に座る。
「ねぇフレックス、ちょっと相談いいかな」
「私の名前ハFlat-Loader-EXTRAです。名前を省略するのハ人間の慣習では失礼にあたりますよ、メル」
「いまは真面目な話。冗談はよして」
「……わかりました。で、どんな内容ですか?」
彼女が顔を上げ、私と目を合わせる。
「ママが言ってたの。もし使命回路のせいで100%の性能を引き出せなかったら、フレックスがフォーマットされるかもしれないって」
「客観的に見て、妥当な選択だと思います。戦力でなく偶像が必要だと彼らハ言っていました。つまり最優先事項は『Flat-Loader-EXTRA』という機体が撃墜されないこと。仮に私がばルばロッサ辺境伯だとしても、それを真っ先に検討しま―――」
「そんなのイヤ。絶対にイヤ」
食い気味にメルメが声を上げる。
「あんたは私の家族なの。楽しいときも辛いときも、私はあんたと一緒に過ごしてきたの。その思い出がたかが戦争なんかのためにリセットされるだなんて絶対にイヤ」
「メル、人はいつか死ぬものです。今回はそれが私の番だと―――」
「あんたが私に乗って戦場に出る。それで使命回路の条件は満たせるでしょ」
返答に詰まる。それは最初に思いつき、そして真っ先に棄却した案だ。
「戦場にあなたを連れていくなど、危険がすぎます。」
「でも私を守るためだったら、フレックス……いえ、Flat-Loader-EXTRAは100%の力が出せるんでしょ」
「それは……そうですが」
彼女が立ち上がる。背は低いはずなのに、今はとても大きく見える。
「私はあんたを守るために戦う。あんたは私を守るために戦う。2人の願いを叶えるには、これしかない」
「まずハ、はルに相談を」
「ママは関係ない。これは私とあんたがどうしたいかの問題よ」
メルメを守り、2人で家に帰る。私に選択の余地はなかった。
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