(第10章)   特別ご招待

記事の更新をしようと、『癒しのおっさん犬』のブログを開いてみると、新着メッセージが届いていた。コメントではなく、個人宛のメールのことだ。

ロンがキラリと目を輝かせ、「おい、もしかして、わいへのファンレターやないか。やっと、わいの魅力がネットの世界で広がったのかもしれへんなぁ。なんや照れるな。ほな読んでみるか」とウキウキした様子で前のめりになっている。

「まぁ、そう慌てるな。ファンレターどころか、冷やかしメールということもあるからな。ここは、慎重にだ」

僕も内心、初めてのメールに心が躍っていたが、一応、飼い主としての落ち着きを見せた。ドキドキしながら「新着メッセージが届いてます」という欄をクリックすると、送信元は、あの銭湯のじいさんだった。

一気にテンションが下がったロンは、「なんや、風呂屋のじじいか。で、なんて書いてあるんや?」と、腰を落とした。


『突然のメール失礼致します。私の銭湯ブログへ何度かご訪問くださった方に、お礼の気持ちを込めて【特別ご招待】の案内を差し上げております。朝晩、冷え込んできた今日この頃、日頃の疲れを癒していただけるよう企画させていただきました。当日は、お湯に浸かっていただき、体と心がほっこりした後、みなさまとの交流会を予定しています。軽食も用意しておりますので、どうぞ楽しいひとときをお過ごしくださいませ。お忙しいとは思いますが、足をお運びいただければ幸いです』


その続きで、日時と場所の説明が書かれていた。

僕は興奮して、「おい、銭湯の招待状だぞ。特別と書いてある。これは、もしかしたら今まで見てきたブログの誰かと会えるチャンスかもしれないな。そしたら、現実に話ができるし、気になっていたことも解消されるかもしれない。桃先生のクラスの虐待も、案外たいしたことなかったりしてな。そうだ! 天作さんも招待されているんじゃないか? せっかくの招待だ。行きますとも」とロンの方を見た。

あっ、こいつは犬だから行けないのか。僕が心の中で思っていると、「そうや、わいは行かれへんのや。パパさんだけええなぁ。お湯に浸かって、食べ物まで用意されてだな。特別ちゅうほどのこともあらへんけど、なんや人は特別ちゅう言葉に弱いさかいにな。行ったらええがな。わいは、一人、いや、一匹で寂しく留守番してるわ。あ~、人間になりたい~」と、ロンは大袈裟に嘆いて、へたり込んだ。

「まぁ、そう言うな。帰ってから報告してやるよ。それに、ここにはロンのパートナーはいないんだろ。また、その内にメリーちゃんとコンタクト取ってやるからさ。節子と一緒に行こうと思ったが、今回は一人の方がよさそうだな。ちょっと楽しみになってきたぞ」

僕は、ブログと現実が繋がることに興奮して、ロンのことどころではなかった。

とりあえず返事をしといた方がいいなと思い、文章を考えていると、ガッカリしていたロンが、突然「ワン!」と吠えた。なっ、なんだよ、いったい?

「わいも行けるかもしれへん。そうや、これなら行けるわ。やっぱ、わいはスゴイで! 自分で自分を褒めてやりたいわ。いい湯だな。あははん」と、僕の膝に前脚を乗せた。どうやら、喜びの表現みたいだ。

「銭湯に行ける? あははんって、湯に浸かる気なのか? 犬なのに、どうやって?」

ドヤ顔のおっさん犬に聞いてみたが、「それはナイショや。その時になれば分かるわ。楽しみにしててや」と、はぐらかされた。

考えてみれば、連れて行くことくらいはできるな。

「じゃあ、『飼っている犬も連れて行きます』と返事しとけばいいんだな」

「その必要はあらへん。パパさん一人で行ったらええわ。そもそも飼い犬を連れて行くって、ヘンに思われるやろ」

そりゃそうだけど、行くって言うからさぁ。ますます意味が分からない。

なんだかモヤモヤするけど、それ以上は答えてくれそうにもない。とりあえず銭湯のじいさんに参加の返事をして、今日は疲れたのでパソコンを閉じた。

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