5 帰還者の宣告

「自分だけの秘密」があるとして、それを誰かに知られたらどう思う?

俺は、正直ちょっと焦る。

特に、そいつが同じ秘密を抱えてるかもしれない奴だったら――な。




被害者の病室から帰って数日後、俺は路地裏でまたあの気配を感じた。

その日の夜は静かだった。

普通の人なら、ただの気のせいで片付けるかもしれない。

でも、俺にはわかる。

これは…鷹村だ。


「よ、また会ったな。」

路地の奥から聞こえた声に、俺は一瞬身構えた。

暗がりからゆっくりと姿を現したのは、例のフードを被った男――鷹村だ。

相変わらず不敵な笑みを浮かべて、俺を値踏みするように見てくる。


「鷹村、何の用だ。」

俺が問いかけると、鷹村は少しだけ口角を上げて答えた。

「確認しに来た。お前がどっち側に立つのかをな。」


「どっち側ってなんだ。」

俺は肩をすくめながら言った。

「俺はただ平和に暮らしたいだけだ。」


「そうか?」

鷹村の声にはどこか挑発的な響きがあった。

「だが、お前の力がある限り、平和なんて簡単には手に入らないだろうよ。」


その言葉に、俺は内心でムッとしたけど、表には出さない。

いや、出さないようにしたつもりだったけど、ハルには見抜かれてたかもしれない。

「零、なんか顔怖いよ。」

肩の上からそんな声が聞こえたけど、無視だ。


「言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。」

俺は鷹村に一歩近づいて言った。

「俺がこの地に何をもたらすって?」


「お前の力は強大すぎる。」

鷹村はまっすぐ俺を見据えて言った。

「もしお前が暴走すれば、この地球そのものが危うくなる。」


「暴走なんてするつもりはない。」

俺が言い返すと、鷹村は静かに首を振った。

「それはお前が決めることじゃない。力というのは、時に持ち主の意思を超える。」


その言葉に、俺は少しだけ黙り込んだ。

確かに、異世界で力を得た時、俺自身がコントロールしきれなかった瞬間があったのは事実だ。


「お前が敵になるなら、俺はお前を排除する。」

鷹村の言葉は冷たくて、迷いがなかった。


「…俺が敵になるかどうかは、お前が決めることじゃない。」

俺は静かにそう答えた。


鷹村はしばらく俺を見つめていたが、やがてフードを被り直して言った。

「そうか。だが、いつでも俺は見ている。」




君なら、こんな奴と平和に共存できると思うか?

俺は正直無理だよ。

鷹村が去った後も、心の中にモヤモヤが残り続けてた。



「零、あの人、怖いね。」

ハルが小さく言った。

「ああ。でも、怖いだけじゃない。」

俺は肩の上のハルを軽く撫でた。

「なんか、あいつにはまだ隠してることがある気がする。」


夜の空を見上げながら、俺はなんとも言えない気分だった。

日常はもう戻らない――そんな予感がますます強くなっていた。



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