3 影の追跡者

なあ、感じたことないか?

誰かに尾けられてるんじゃないかっていう、あの変な感覚。

いや、普通は気のせいだって思うよな。

俺も最初はそう思おうとしたんだ。

でも、その夜は――違った。



呪印術の模様を見つけた夜、俺は帰り道で妙な気配を感じてた。

後ろに何かいる。

でも振り返る勇気が出ない。


「零、誰かいるよね。」

ハルが肩の上で不安そうに話しかけてくる。

「ああ、いると思う。」

そう答えたけど、心の中では「誰だよマジで」って半泣きだった。


でも、ここで逃げたら恰好つかないだろ?

だから、わざと人気のない路地に足を踏み入れたんだ。


足音が聞こえる。

いや、聞こえた気がしただけかもしれないけど、間違いなく誰かがついてきてる。

路地の奥に進むと、気配がますます濃くなる。


俺は立ち止まって振り返った。

……そいつはいたよ。


暗がりの中から一人の男が現れた。

黒いフードを深く被って、顔が見えない。

でも、その鋭い視線だけが俺を貫いてた。


「お前が一条零か。」

低い声が路地に響く。


いや、君ならどうする?

こんな状況で冷静でいられるか?

俺は――一応、冷静を装ったよ。

「そうだ。で、お前は?」

そう言ってみたものの、内心では「なんで俺の名前知ってんだよ…!」ってプチパニックだった。


男はフードを外して、素顔を見せた。

鋭い目つきに、どこか異世界の気配をまとってる感じ。

「俺は鷹村だ。」

「鷹村…?」


「お前と同じだ。俺も帰還者だ。」

その言葉に、俺はちょっと息が詰まった。

異世界から戻ってきたのは俺だけじゃなかった。


「で、俺に何の用だ。」

「確認だ。」

鷹村は短くそう言った。

「お前がこの地に何をもたらすのか。そして、呪印術にどれだけ関わるつもりなのか。」


「呪印術?俺には関係ない。」

俺が即答すると、鷹村はじっと俺を見つめた。

「そうか。それならいい。」


鷹村は一歩後退し、路地の闇に溶けるように姿を消していった。

だけど、最後にこう言ったんだ。

「もしお前が関わることになったら、俺は再び現れる。」


……なあ、君はどう思う?

こんな出会いをした後で、普通に平和な日常に戻れるって思うか?

俺は――戻れる気がしなかった。


「零、あの人、信用できるの?」

ハルが聞いてくる。

「さあな。でも、確実に何かある。」

俺はそう答えて、肩のハルを軽く撫でた。


帰り道、俺はずっと考えてた。

あの呪印術と鷹村の言葉。

日常はもう壊れかけてる――そんな予感だけが、頭の中に残ってた。



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