2 不穏な痕跡

気になる事件があって、それが妙に引っかかるとしたら。

放っておくか、それとも調べに行くか?

俺?

結局、行っちまったんだよな。



その夜、俺は路地裏に向かってた。

ニュースでやってた被害者が倒れてた場所だ。

普通の人なら「怖いから近寄らない」ってなるだろうけど、俺にはどうしても気になって仕方なかった。


「零、本当に行くの?」

肩のハルが、念話で話しかけてくる。

「行くさ。見ないと気が済まないからな。」

そう答えたものの、正直言うとちょっとだけビビってた。

いや、だって呪印術なんて異世界のもんだろ?

それが地球にあるって考えただけで、普通に嫌な予感しかしない。


現場に着くと、路地はひんやりしてて、なんか空気が違うんだよな。

昼間は人が多かったはずなのに、夜になると妙に静かだ。

俺は警察の規制線の外からそっと様子を伺って、隙を見つけて中に入った。


「あったな。」

模様だ。アスファルトの上にぼんやりと残ってた。

雨で少し滲んでるけど、見間違えるわけがない。

異世界で何度も見た呪印術そのものだ。


「零、これ、本当に呪印術だよね。」

ハルが小さな声で念話してくる。

「ああ、間違いない。」

俺は膝をついて模様をじっくり見た。


君もこれを見たらわかると思う。

普通の模様じゃない。

異世界では高位術式とされるヤバい奴だ。

で、これを地球で扱う人間がいるって?

信じられるか?


「誰がこんなものを仕掛けたんだ…?」

俺は小さく呟きながら、模様の端に手をかざして魔力の残り香を感じ取った。

「まだ動いてるな。残り香が強い。」


その時だ。

背後に微かな気配を感じた。

反射的に振り返るけど、そこには誰もいない。

いや、気のせいじゃない。この感じ…確実に何かいる。


「零、誰かいるよね。」

ハルが不安そうに言ってくる。

「ああ、いる。…でも、姿は見えない。」

俺は周囲を警戒しながら、模様を写真に収めて立ち上がった。


結局、何も姿を現さなかったけど、その気配は最後まで消えなかった。


君ならどうする?

こんな気味の悪い模様を見つけて、しかも何者かに尾けられてる感じがして――それでも平然と帰れるか?

俺?

正直、心臓バクバクだったよ。

でも、俺がやらなきゃ、誰がやるんだってな。


「零、これ、関わらない方が良かったんじゃない?」

帰り道、ハルがぽつりと聞いてきた。

「俺だってそう思うさ。」

でも、呪印術を目の前にして、知らないフリなんてできない。


そう思いながら夜の街を歩いてる時、頭の中ではずっと模様がちらついてた。

これが、日常が壊れる音ってやつかもしれないな。

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