過程
サラーサがジムの家に居候してから二週間が過ぎました。
右肩の傷はまだ良くならず、サラーサは歯噛みをする毎日でしたが、ジムという人間のことについては少しずつ分かってきました。
ジムは大の甘党で、蜂蜜をかけたホットケーキ上から砂糖を振りかけるという奇行をする程の筋金入りの甘党でした。
「ミラさんも砂糖かけますか?」
「い、いや……遠慮しますわ」
サラーサは甘い物が得意でなかったので、この人間とは分かり合えない。そう最初の頃は思っていたのです。
ですが、そこから更に一週間、二週間、一ヶ月と共に過ごすうちに、サラーサにも心境の変化が訪れました。
怪我をしているとはいえ、自分に料理を作ってくれたり、風呂を沸かしてくれたり、献身的なジムの態度に、どうして自分の様な得体も知れない女にここまで尽くしてくれるのだろう?と疑問に思う様になりました。
「ジムさん、どうして私に良くしてくれるんですか?」
「幼い頃に死んだ親父の遺言でね。女の人には優しくしろよと言われていたんです。それも美人には、うんと優しくしろと言われていたんで、ミラさんには特別優しくさせてもらってます」
言ってから顔を赤くするジム。
この男は何を言っているんだろう?とサラーサは戸惑いましたが、ふと鏡を見ると自分の顔もほんのり赤くなっていることに気付いて恥ずかしい気持ちになりました。
この頃になるとサラーサにはジムを上手く使ってやろうなんて気はこれっぽっちも無くなり、彼の優しさに惹かれている自分に気付くのでした。
出会ってから一年。右肩の傷もすっかり良くなり、心苦しくなったサラーサはジムに自分のことを打ち明けることにしました。
「ジム、私は本当はサラーサって言うの。聞いたことがあるかもしれないけど悪い魔女でお尋ね者なのよ。今まで本当にごめんなさい」
目に涙を貯めて、生まれて初めて人に謝るサラーサ。
ジムという優しい人間に触れ合うことで、すっかり良心が身に付いてしまったのです。
彼女の突然のカミングアウトにジムは驚きもせず、そっと彼女の手を取りました。
「知っていたよミラ……いやサラーサ。いつ打ち明けてくれるのかと、ずっと待っていたんだ」
ジムは町に出た時にサラーサの噂を聞き、それがミラだと、とっくの昔に気付いていたのです。気付いていて、彼女に無償の愛を注いでいたのでした。
ジムはミラの右手に何かを握らせてこう言いました。
「サラーサ、結婚してください。私はアナタのことが好きです」
「……えっ?」
サラーサは戸惑いながら恐る恐る右手を開くと、そこには銀色に光る指輪がありました。
「安物で申し訳ないんだけど、これが今の私に出来る一番の贈り物です。結婚指輪なんだけど受け取ってもらえるかな?」
ジムの問いにサラーサは暫く黙って考えました。
心の魔女の自分はそんな指輪など捨ててしまえ‼と叫びますが、そんな叫びが掻き消える程にサラーサの中でジムの存在は大きなモノに変わっていたのです。それはまるで魔法の様でした。
「はい……喜んで」
サラーサの瞳から一筋の涙がツーとこぼれます。それを見たジムは優しく彼女を抱き締めるのでした。
木こりと魔女が結ばれた瞬間でありました。
こうして二人は末永く仲良く暮らしましたとさ……と終われれば良かったのですが、悲しいことに二人の幸せは長くは続かなかったのであります。
~つづく~
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