ヘンゼルとグレーテルZERO

タヌキング

出会い

 鬱蒼と生い茂る森の中、傷ついた一人の女が倒れていました。

 彼女の名はサラーサ。大きな黒いトンガリ帽子に黒装束に身を包んだ、俗に言う魔女と呼ばれる人物でした。

 サラーサは悪い魔女であり、詐欺、窃盗、時として殺人まで行う程の悪人です。

 そんな彼女は魔女狩りに遭い、返り討ちにしようとしたところを右肩を毒矢で打たれ、この森に逃げてきたのでした。


「お、おのれ人間め……このままでは済まさんぞ」


 怨嗟を込めた言葉を吐きますが、心とは裏腹に体はどんどん衰弱していきます。毒矢の毒のせいでロクに魔法を使うことも出来ません。このままでは一巻の終わり、そう思われた時、とある男が彼女の前に現れました。


「大丈夫ですか?」


 髭を沢山蓄えた、体が大きく恰幅の良い男の名前はジムと言い。この森で暮らす木こりでした。


「た、助けて下さい」


 サラーサはしめしめと、か弱い女のフリをしました。狡猾な魔女である彼女にとって嘘をつくことなんて空気を吸うようなものです。


「分かりました。私の家までお連れしましょう」


 ジムは軽々とサラーサを抱きかかえ、自分の家まで彼女を運ぶことにしました。

 衰弱しきっていたサラーサは運ばれている間に気絶してしまい、次に気が付いた時には、ふかふかのベッドの上で寝ていたのです。


「ここは何処だ?魔女狩りの奴らは?……痛っ‼」


 サラーサの意識は混濁していましたが、右肩の痛みで全てを思い出しました。


――そうか、確か大男に助けられたんだったな。ということはココはアイツの家か


 見たところ部屋の一室であり、木で出来た小屋の中に居るとサラーサは推察しました。先程の木こりを見つけ出して殺すことも出来ますが、未だに毒の影響で魔法は使えない様で、ここは体力回復させるのが最優先だと考えました。


”ギィィイイ”


「おや?気が付いたんですかな?」


 扉が開いて水桶を持ったジムが部屋の中に入って来ました。大きく威圧的な外見をした彼ですが、ニコニコした笑顔から人の良さが滲み出ていました。


「あ、あなたが私を助けてくれたんですか?……記憶が曖昧でして」


 サラーサはまた嘘をつきました。記憶が曖昧なフリをしていた方が何かと好都合と考えたのです。


「まぁ、一応そうですが、何も気にしないで下さい。私が勝手に助けただけですから」


 聖人の様な事を言う木こりに、サラーサは内心では唾を吐きかけてやりたくなりました。彼女は綺麗ごとと、良い人ぶっている奴が大嫌いだったのです。


「私の名前はジムです。この辺で木こりをやらしてもらってる男です。アナタのお名前は何ですか?」


「ミ、ミラです……良くして頂いてありがとうございます……すぐに出ていきますから」


「いえいえ、体良くなるまではココに居て下さい。そうでなくては私も安心できないのです」


「そ、そんな……悪いですわ」


「良いんです、良いんです。どうせ一人で暇していましたから、まぁミラさんが嫌なら町まで運んで行きますが」


「それだけは勘弁を‼」


「えっ?」


 サラーサの大声にジムは目を丸くしました。

 サラーサが大声を出した理由は町にだけは絶対行きたくなかったからです。何故ならまだ魔女狩りの連中が町に居る可能性があり、魔法も使えない今の状況では死にに行くようなものなのです。


「い、いえ、お言葉に甘えて、元気になるまでココに居ても良いですか?」


「はい、構いませんよ」


 ジムは断る理由はありませんでしたからニッコリと承諾しました。

 そうして水桶の中から濡れたタオルを取り出し、しっかり絞ってからサラーサの額に乗せるジム。

 ひんやり気持ち良いと感じながら、サラーサは人の良いジムをどう上手く使ってやろうかとニヤリと笑いました。


~つづく~

 

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